女らしく【13】『潜入と調査と後編』-3
「いやいや、他人の不幸は蜜の味なんてこれっぽっちも思ってやせんぜ!蘆屋の旦那♪」
絶対…喜んでやがる…
「ここだけの話だけど…」
急に声を潜め出す夢。
でも、ここだけの話って言って、ここだけで止どめた奴をオレは見たこと無いんだけど…
「定守先輩の趣味は黒魔術らしいよ…他の娘がね…先輩が魔術の本を山のように並べて読んでるとこ見たんだって…」
ふと黒いマントを着て何やら呪文を唱える先輩の姿が脳内で克明に描き出された。
「うわぁ…リアルな光景…」
「でね…一説によると天使様を召喚したのは先輩だとか…」
「ふ〜ん…」
「ご馳走さまでしたわ」
ようやく奏が朝食を食べ終わった様だ。
「じゃあな夢!」
「ああ、ちょっと待ってよ!情報料として大和君の番号もしくはアドレスを…」
押し売りは間に合ってるよ。
夢をその場に残し、さっさと足早に立ち去る。
「天使様は定守先輩が召喚か…どう思う?」
「微妙ですわね…」
まだほとんどの生徒が朝食を取っているため、廊下はとても静かだ。
「それより…誰もいねえな…」
「空気も悪いですわ…」
湿った生温い空気が肌にまとわりつく。
「オレが犯人ならさ…」
ヒュンッと風を切る音がして何かが背後から飛んできた。
「やっぱり此所を狙うよな!」
体を捌き、振り向きざまそれを手刀で叩き落とす。
「な、何だこりゃ!?」
ぐにっと変な柔らかさと弾力性を持った相手の何かを切り落とした。それはトカゲの尻尾の様にグネグネ動き回ている。
「逃しませんわ!」
グネグネが襲ってきた廊下の角へ駆け出したが、そこには何も存在していなかった。
「逃げられたか…」
「マコトは何だったと思います?」
「少なくとも普通の人間と幽霊じゃねえな…
後天使でもない。これは確実!」
まだ切り落とした物体は蠢いている。
「丁度いい…これを利用してやろう」
懐から一枚の紙を取りだし、グネグネに被せ、呪とともに指で空中に横線4本、縦線5本を引く。