二つの鼓動〜誕生〜-1
ドクンドクン。
鼓動が聞こえる。
リズムよく。少し頼りなく。
初めて生まれたその子を見た時、胸の奥で沸き上がる感情をどう形容していいか思いつかなかった。
私の鼓動も高鳴る。
ドクンドクドク…。
まるで呼応するかのように。
私の中のリズムは少しずつ乱れ始めている。
不整脈。
私が抱える爆弾。
この鼓動は何かを訴えかけている。
まるで、生き急げと言っているかのように。
胸に手を当ててみる。
痛みとともに私の鼓動はくすぐったいような感情に包まれていた。
生まれたばかりの未完成なスタートラインを踏み越えた彼を抱き上げた。
思いの外の重量感。
命の重さってこんなかんじなのだなぁと改めて実感する。
これから彼には幾つものドラマが待っている。
葛藤し涙しながらたくましく成長してほしい。
なぜかはわからないが
涙が流れた。
絆が確かにここに生まれた実感。
私は彼よりも大分はやくこの世界から旅立たなくてはならないのかぁとぼんやり考えてしまった。
ずっと見守っていてあげたい。
愛していきたい。
この世界の中で誰よりも強く深く。
父になることを正直恐れていた。
少なからず重圧が覆いかぶさってくるんだろう。
少しずつ私の体の変調に気付きながら決意した。
今日が自分のための人生の最終日にしよう。
今日からこいつのために生きていくんだ。
世界にまだ残っている喜びを沢山見せてあげたい。
名前は以前から心にあった。
「拓人」
自分の人生を切り拓ける男になってほしい。
自らの道を。
望む道を。
明るい道を。
誰かのための道を。
願わくば強く優しく。
私が旅立っても忘れないでほしい。
君に託したモノを。
君の名前に託した願いを。
限られた時間の中でいくつ話しができるだろう。
いくつ夢を語り合えるのだろう。
拓人。
愛してます。