乙女心-1
夏真っ盛りの暑い日が続き、いい加減蝉の鳴き声にも飽きちゃったりして。
もっと、涼しい鳴き方をする新種の蝉が見つかるといいなと思い。
そんな蝉、あたしが見つけたら儲かるかしらなんてどうしようもないことを考えてしまう。
昼でも夜でも都会の暑さは変わらず、せっかくシャワーで流した汗も気持ち悪くまたまとわりつく。
まったくどうにかして欲しいものだわこの暑さ。
そう言いながら、あたしはカレンダーに印を付ける。やってくるのは夏祭り。
乙女心
夏休みは部活三昧のあたしにとって、唯一と言っていいほどの遊びに行ける日。
そう夏祭り。その言葉を聞くだけで、気分が高揚してしまうあたしは生粋のお祭り大好きっ子。それでも残念。名前は祭ではありません。
あたし、小岩井彩花。今日は友達の涼子ちゃんとお祭りに来ています。
本当は、もう一人千鶴も呼んではいたんだけど、今ここにいるのは涼子ちゃんとあたし。
『まったく、千鶴ったら自分から誘っていて来れないなんて』
あたしは膨れっ面を叩きながら、腕を組む。
『あはは。でも、家の用事だから仕方ないよ』
あたしはそう言う彼女に見とれていた事に気付く。この夕日の所為で彼女の頬が情欲を誘う色にでも染まっているのだろうか。
熱を帯びた肌に浴衣がまとわりつく。涼子ちゃんのそういう姿は女のあたしから見ても艶めかしいところがある。
それにしても涼子ちゃんは浴衣がよく似合っていること。鮮やかな彼女の紅の浴衣にあたしは魅了される。
対してあたしは一応浴衣で来ましたけれど、彼女には可愛く見えるのかな。
ただの夏祭りに行くだけなのにこんなにお洒落に気にしているあたりが恋する乙女である。
さっきまで傾いていた日は沈み、いつのまにか電灯、電飾の明かりがついていた。通りの人もぐっと数が増えて見える。祭りが本格的に始まるようです。
『じゃあ先に進もっか。あたしね、たこ焼き食べたいな』
涼子ちゃんはあたしの手をとると、先へと引っ張っていく。もう慣れたつもりの涼子ちゃんの手。やっぱり慣れていない自分に気付く。
あたしは別に戸惑うこともないのに顔が熱っぽくなるなるのを感じていた。
『彩夏さんって聞いてますか?』
歩いている途中で、涼子ちゃんの声を聞いた。どうやらあたしは惚けてしまって、彼女の話を聞いていなかったみたい。
『もう。ちゃんと聞いて欲しいのに』
『ごめん。何でも言うこと聞きますから』
『何でも。ですか。じゃあ、今日はあたしのわがまま聞いてくださいね』
無邪気な子供のような笑みを浮かべている。
『ちょっと、どこにいくの!?涼子ちゃん』
涼子ちゃんに連れられて通る道。すれ違う人はカップルばかり。あの人たちお揃いの指輪を薬指にしている。永遠の愛を誓った仲なのかしら。
そのとき、聞き覚えのある声で呼び止められる。
『あら。彩夏さん。涼子ちゃん』
あたしたちは声する方向に顔を向けると、祭りの中でも一際艶やかなな浴衣姿の雨条センパイたちに会う。
真帆、華帆、詩帆センパイは容姿端麗にして眉目秀麗。あたしのバスケットボール部のセンパイなんです。