乙女心-3
『まあ、これ以上二人の邪魔をしちゃあ不粋よね。華帆、詩帆』
それに頷くお二人方。以前涼子ちゃんが言った通り、まさに嵐のような人たちよね。
嵐が去ったあとにはもとの静けさがやってくるのも道理。
あたしたちはただしばらく手を繋いであるいていた。
『ところで、涼子ちゃん。さっきどこかに連れていこうとしていたけど』
『ああ、大丈夫。実は今も向かっているのよ』
そうは言っても、あたしたちは祭りの中心部から外れ神社の境内へと向かっていた。
ここの神社がお祭りの発祥ではあるけれど、今では市街地のほうのイベントのほうが賑わっている。
だからこんな時、神社なんかに行く人なんて、あたしたちくらい。
それでも進む。しかも若干早足になった涼子ちゃんにあたしは続く。
ついに屋台はなくなって、心許ない電灯と、星月の光だけがあたしたちを照らす。その情景はとても素敵なものだった。けれど、あたしは不安になって涼子ちゃんを見る。
僅かな光に照らされた彼女はとても綺麗で、触れたいのに、すぐ壊れてしまいそうで。
涼子ちゃんの瞳に見つめられると、あたしはそこから目が離せなくなって。いつのまにか彼女の小さな顔が眼前にあった。
そのとき、遠くで何かを打ち上げる音が聞こえた。それは闇夜に咲く一輪の花。
あたしと彼女の頭の上で、それは大地をも轟かす音をたてながら赤々と咲いていた。
『綺麗』
思わず口からもれる感嘆の言葉。
『あたしが、それとも花火が?』
あたしをからかっているのか、涼子ちゃんはそう言った。
『そんなっ。両方ともだよ。って言うか、涼子ちゃんは始めからこれをあたしに見せるつもりで?』
『そう。彩夏さんはやさしいね。』
あたしたちは境内の端に寄り掛かりながら、次々と打ち上げられる花火を見ていた。
今日見る花火は千鶴と見ていた花火と違って見える。
それは千鶴がいないからなのかも知れないし、神社から涼子ちゃんと見ているなのかも知れない。
けれど、あたしはこういうのもいいなと実は思っている。彼女と二人で。
花火を見て満足気なのか彼女は笑みを浮かべて振り向く。その笑顔を見て本当に綺麗なのは貴方よ、と思ったあたしは馬鹿でしょうか。
『また来年も来ようね』
月並みな言葉ではあったけど、今のあたしは彼女といることがなにより大事な事になっていた。