第七十八章 王宮の平和-4
(でも・・・・。)
ルナは思った。
誰も壊す事の出来なかった教会にくすぶり続けていたアズートの怨念を、精霊達と母の魂がルナに力を貸してくれた気がする。
全ての事実を晒されてズタズタになった心が爆発した時、凄まじい力が雷となって教会を襲ったのだ。
その時、ルナの心に何かが語りかけた気がした。
『ルナよ・・・五年の間、よく辛抱した。
そして、力を蓄えた・・・。
今、母の忌まわしい過去を知り、自分の無残な記憶とも戦った。
その力が我らに奇跡を起こさせたのだ。
もう、お前は呪いから解き放たれたのだ。
これからは何も恐れることは無い。
お前自身の人生を堂々と生きるがいい。
愛する夫、ディオンと共に。』
崩れる建物の中、ドザリが助けに来てくれた。
「ルナ様っー・・・」
気を失う直前に聞いた声の主は、もういない。
崩壊した建物の残骸からルナが助けられた時、ドザリの身体が覆い被さるようにルナを守っていた。
その死に顔は安らかな笑みを浮かべていたという。
愛するルナを守りながら死んでいく事に、無上の喜びを感じていたのかもしれない。
ディオンはそう言ってルナを慰めた。
二人は誓い合うのだった。
これからの人生を共に生き歩んでいく事を。
どんな障害に出会おうとも、逃げる事なく一つ一つ乗り越えていくのだ。
「ルナ、子供をつくろう・・・」
目を輝かせて言う夫に、妻は嬉しそうに答えた。
「ええ。私・・・たくさん、生むわ・・・」
「そうだ・・・そして幸せになるんだ・・・」
「はい、ディオン・・・あなた・・・」
絡め合った二人の指から互いの温もりが伝わってくる。
それは、これからの人生を支えてくれる大切な愛の証であった。