第四章 ヤスミンの敵はヤスミン-1
くのいちに変装していた不二子が忍者どもを倒し、難を逃れてから。
そのわずか数分後、同じバスルームである。
「……あの3人を退けるとはネズミめ、なかなかの手だれと見た……部下に欲しくなるな」
残りの部下たちとともに戻ってきたタタリ衆のカシラは、残された3人の斬殺死体を片付けさせながら、腕組みをしてつぶやいた。
大きな浴槽の前のストレッチャーの上には、新しいドレスを身に着けて眠ったままのヤスミン姫が残されている。
ただ峰不二子だけが、忽然と姿をくらましていた。
連れて逃げるには不利と見て放置していったのは、強欲不比な女盗賊とうわさのある不二子の行動としては納得がいく。
しかし、あの女は姫の誘拐理由に地下水脈の利権が絡んでいることは、あるじである老人の話を聞いて知っているはず。
とすれば……
「……あの女、姫のところに戻ってくるやもしれん……皆、要塞内部の警戒をおこたるな!!」
「「「御意ッ」」」
10数名ほどの忍者衆は応じて、足早に要塞内部の警備のために各所へ去っていった。
「……してやられましたねタタリ殿?」
浴室内のスピーカーから、例の老人の声が響いてくる。
「……おんなネズミめ、うまく監視カメラの死角を突いて行動しておる……まあ少なくとも、この要塞から逃げおおせた訳では無いでしょうがねえ……ヒヒヒヒ」
もともとの設計では、ここは難攻不落の無人要塞として計画された。それでも人間のサポートは必要だろうとタタリ衆らを雇い入れた老人であった。
が、峰不二子はそれを難なくかいくぐって見せているのだ。
「タタリよ、姫がネズミから何か聞いているかもしれん……例の場所まで連れて来るのだ!!」
「ぎ、御意」
「ただし、わたしが用意したあの者どもも連れてこい……殺られたお前の部下の補充にちょうどいいはずだ」
「ははッ」
急に語気を強めた老人に萎縮しつつも、行動を開始するタタリの頭領であった。
□□□
……ゴウンゴウンゴウンゴウン。
薄暗い縦穴を、エレベーターに載せられたストレッチャーが、作動音の振動で震えながらゆっくりと浮上してゆく。
ストレッチャーの上には、眠ったヤスミン姫。
壁や天井のないエレベーターは、数メートルごとに配置された非常灯の青白いランプを通過するたび、載せられた美姫の真新しいドレスを浮かび上がらせた。
もともと身に着けている黄金の金冠と首飾りに合わせて作られたのか。
金の装飾を散りばめたブラジャーがバストを覆い、同じ意匠の金の腰帯から伸びたシースルーのスカートが、際どく秘部を隠した金ののレースの下着と、しなやかな両脚を透かしていた。
口元を覆っている、金糸で刺繍をほどこした深紅の布が、かえって彼女の目元の美しさを際立たせている。
そう。
ベラ、と呼称されるベリーダンスの踊り子の衣装に近いデザインのドレスを、彼女は着せられていたのである。
ガシャン、シュゥウウウ。
姫を載せたエレベーターがたどり着いた終点は、広さも高さもわからぬ暗闇の中であった。
同時に、彼女を乗せたストレッチャーに、数条のスポットライトが浴びせられて、眠り姫の神々しさをより鮮明にした。
「……ウヒヒヒヒ、思ったとおり、踊り子の衣装がとても良くお似合いだ」
スピーカーからの老人の声がこの部屋全体と、姫の鼓膜をふるわせた。