第四章 ヤスミンの敵はヤスミン-3
ヤスミン姫を乗せたストレッチャーは、石畳を敷き並べたドームの中心にあった。
「イヒヒヒヒ…………案外、すぐ近くで見守っているのはわたしの方でしたねえ」
そんなヤスミンを見下ろして、ドームの壁にある巨大なガラス窓から笑う老人の影が見えた。
「さあ、まずはその戦士と準備運動ですよ!!」
老人が見物を決め込む窓の下の壁が開いて、中から全身に西洋甲冑を着込んだひとりの戦士が迫って来た。
鎧とそろいの兜をかぶったその顔は見えないが、奇声を発しながらヤスミン姫に向かって剣を振りかざして駆け寄ってくる。
ズバッ。
鋭く重い両刃剣がストレッチャーを両断するところを、姫は危ないところで転がり落ち、辛うじて刃をかわした。
すかさず剣の切っ先をひるがえして、石畳を転がる姫を串刺しにしようと連続で突きを繰り出してくる。
「キャッ!!」
逃げようと後ずさる姫のドレスは、見る見るうちに切り裂かれてゆく。
スカートのスソが、首飾りの鎖が、そして金色のレースで出来たブラジャーが。
「いやぁん!!」
隠されていた豊かなふくらみがこぼれそうになって、姫は小粒な乳首がさらされるのを片手でかばった。
胸を見られまいと思わず背中を向けたヤスミンの背後に、容赦のない追撃が横一閃になぎ払われた。
剣の先端はスカートの後ろを裂いて、お尻に食い込んだ金色のパンティをあらわにした。
「ああん……み、見ないでぇ!!」
悲鳴を上げながら今度は尻を隠そうとするが、さらなる剣の連続突きを繰り出され、思うように身体を隠せない。
そうしているうちに姫は石壁に追い詰められてしまっていた。
片手で胸を、もう片手で股間をかばったヤスミンにはもはや反撃の手段はなく、ひたすら逃げ惑うほか無かった。
口元を隠した赤いガラベーヤも、いつのまにか端を切り裂かれて、頬に出来た小さな傷が血をにじませている。
そして追い詰められた姫の目尻にも、涙がにじんでいたのだった。
「イヒヒヒヒ……いけませんよ姫君。美しい身体を見せつけてこそのベリーダンスなのですから、隠してはいけませんネェ」
先ほど言われたことへの報復なのか、陰険に姫を見下ろしてあざ笑う老人である。
「さあ戦士よ……臆病な姫君に、隠さないお手本を見せておあげなさい」
老人が命じると、ガシャン。
またひとつ、ガシャン。
戦士のまとっていた金属甲冑が、ひとつ、またひとつ。
ゆっくりとその内部をあらわしていく。
最後に兜が床に転がったとき。
そこに立っていたのは生まれたままの姿を隠そうともせず剣を構えた、ヤスミン姫そのものだったのである。
「わ……わたくしが……わたくしがもうひとり……そんな……そんなまさか」
ガラベーヤで顔を、腕で両胸と股間を恥じらいたっぷりに隠したヤスミンと、甲冑を全て脱ぎ捨てて仁王立ちで見下ろしたもうひとりのヤスミンが怪しい笑みを浮かべ、誇らしげに両乳房を、照明に照らされて輝く縮れ毛をさらけだしていた。
ヤスミンの敵は、もうひとりのヤスミンだったのだ。
「驚くのはまだまだ早いですよ姫君さま……いでよ戦士たちよ!!」
スピーカーからの老人の号令とともに、さらなる全裸のヤスミン姫がひとり、またひとり。
合計4人の生き写しの全裸姫がズラリ、戸惑うヤスミンの前に立ちはだかった。
追い詰められた半裸のヤスミンと、彼女を取り囲む全裸のヤスミンたち。
「フヒヒヒヒ……美しいでしょう?、わが技術のすべてを結集して創り上げた芸術品、強さと美貌を兼ね備えた最高傑作を」
ガラス窓の向こうで笑う老人のとなりに、いつのまにかもうひとりのヤスミンが全裸で立っていた。
「……死ぬこともなく永久的にわたしを守り、戦い、そして従順にわたしだけを愛するためだけに生まれた無敵のマシーン、アンドロイド戦士たち、ソレがこのヤスミンだ」
隣に立つヤスミンの肩を無造作に抱き寄せた老人は、そのまま彼女にキスをした。
ニチャ……クチャクチャ。
合わさった唇からの湿った音がスピーカーから伝わって、見上げていたヤスミン姫は目をそむける。
「ア、アナタ……皆ガ見テイマス……ハ、恥ズカシイ」
「いっひひ……いやいや、もっともっと見せつけてやろう、ホレ」
無防備なアンドロイドの乳房に老人が吸い付いていた。
「アアン……アナタ、オヤメニナッテ下サイ……イケマセン、アッ、アッ、アアン」
左右の乳首を代わる代わる唾液で汚しながら、老人の手はアンドロイドの股間へ潜り込んでいる。
「イケマセン……ソ、ソコハ、ソコハナリマセン……ハズカシイ」
「だ、駄目だ……もっと見せろ」
「アア、イヤァン」
巨大なガラスに押し付けられたアンドロイドのオッパイが、乳首ごと平らに押しつぶされた。
そうさせておき、背後に突き出された尻に向かって老人がしゃがみ込む。
「アア……ステキ、素敵ヨアナタ……アナタノ舌、気持チイイデス……アア、ソコ……ソコヲナメテ……モット甜メテクダサイ」
尻に顔を埋めているであろう老人が、アンドロイドのヤスミンに何をしているのか、イヤでも伝わってくる。
ヤスミン自身の声を合成して機械にしゃべらせているのだとわかっていても、自分に似せた声がひわいな言葉を発して老人といかがわしい行為に及んでいる光景は、ヤスミンにとって耐え難かった。
「ホヒヒヒ……こんなにしおって、はしたないメスめ…………おっといかん、忘れるところだった」
アンドロイドとの淫行に夢中になっていた老人はようやく我に返り、号令をかけた。
「……さあ、もう予行演習はそこまでにして、本番の運動会を始めたまえ!!」
全裸の彼女自身を模した者たちが、逃げ場のないヤスミンに飛びかかったのだった。