第二話 提案-1
「異性にもてる人ってどんなタイプだと思う?」
バーで拓海はそう会話を切り出した。
「そうですね、色気のある人、かな?」
「それははっきり言うと、セックスしたくなる男性・女性ってことかな?」
「・・・まぁ、そういうことになりますね」
「へぇ、お堅い芽美ちゃんから、そんな回答がくるとは驚きだな!」
「私だってもう25歳、アラサーの大人の女ですよ、馬鹿にしないでください!」
拓海の質問と揶揄するような口調は芽美のトラウマを刺激した。バレンタインデーの後から芽美は、孝に誘いを断られたのは自分に性的魅力が欠けているせいなのだろうかと、ずっと悩み、苦しんでいた。女性向けの雑誌やウェブサイトの恋愛・セックス特集を見たりしているものの、それで解決できるとも思っていなかった。雑誌の美容整形広告のページを眺めたり、街の占いの近くで立ち止まったりしてしまうことも度々あった。
「そうだね、失礼だった。申し訳ない。でも核心をついてるから驚いたっていうのもあるんだよ。ネットで検索してみたらわかるけど、的はずれな解答が多いから。」
「それで答えはなんですか?」
「異性にもててる人だよ」
「なぞなぞか禅問答かなにかですか?」
馬鹿にされているようでイラッする芽美。
「いや真面目な答え。集団心理ってやつでさ。他人が良いと思うものを自分も良いと思う傾向が人間にはあるんだ。特に日本人は個が弱くて職場の人間や友人、マスコミなんかの意見に流されやすいタイプが多いから。それが異性関係にも当てはまるってこと。『隣の芝生は青い』ってやつ。」
「ずっと彼氏のいない才色兼備の女の子より、彼氏がとぎれたことのない普通の女の子のほうがもてるってことですか?」
「そうだね。そういう普通の女の子のほうが彼氏と別れたあとにすぐ他の男に告白されたり、彼氏がいるのに口説かれたりするんだ。芽美ちゃんだって、例えばK大学卒業のイケメンで優しい28歳くらいのエリート会社員に付き合って、と言われても、彼にずっと彼女がいなかったとしたら、付き合うのを躊躇してしまうんじゃないかな?ハイスペックすぎて釣り合わなくて苦労するかもって敬遠してしまったり、マザコンとかゲイとか、なにか裏があるんじゃないかと疑ったり、色々考えちゃって。」
「それは・・・まぁ・・・実際に付き合ってみないと何とも・・・」
と言いつつ芽美は思う、そんな男に告白されるなんて、そもそもあり得ない、と。
醒めた気持ちでいる芽美の様子を気にせず、拓海は淡々と話を続ける。
「実際、心理学でのこんな調査結果もある。
@美人でスタイルがよく過去に男性との交際経験が複数ある女性。
A美人でスタイルがよいが過去に男性との交際経験が皆無の女性。
B容姿は普通だが過去に男性との交際経験が複数ある女性。
C容姿は普通で過去に男性との交際経験が皆無の女性。
この中から、もし自分がお付き合いできるならどの女性がいいかを20〜30代の日本人男性100人に回答してもらったところ、Cはゼロ回答で@に答えが集中した。
そこで次にAとBだけを選択肢として提示したところ、Aと回答した男性とBと回答した男性の割合が約1:3。つまり大差で容姿が普通で過去に男性との交際経験がある女性が選ばれるという興味深い結果となった。」
「処女好きのオタクがAを選んでいそうですね。」
「うん、実際Aを選んだ男性のプロフィールをみると、大半が、付き合う女性が処女であることを重視する童貞の男性で、残りの少数は女性との交際経験が豊富で自信に溢れた男性だった。」
「やっぱり。でもこういう調査って信用できるのかなぁ。」
「そうなんだよね。実は心理学の実験や調査って眉唾モノがおおくて再現性のないものに溢れてたりするんだ。ところが、これについては似た実験・調査が多数あって、みな同様の傾向の結果が出ているんだよ。」
「拓海さん詳しいですね」
「おいおい、僕はT大の社会心理学科の卒業生だぜ。心理学を勉強すればモテるようになるかと邪な動機で進学した学生だったけどな。」
「そうでした。そうやって勉強したノウハウで奥様を口説いて結婚したんですね?」
「いや、現実の恋愛経験者のほうがテクニックは上だったよ。俺は口説かれたほうさ。それはさておき、交際経験があるってところも重要なポイントでね。」
「やっぱり処女は敬遠されるってことですか?」
「そういう面もあるけれど、むしろ付き合って実際にエッチできるかどうか、という点が重要でね。この調査では回答者一人ひとりに個別インタビューをして質問の意図を細かく説明して、回答の中身や選んだ理由などについてもしっかり調べたから。交際経験があってもエッチに消極的な女性はダメで、交際経験がない処女でもエッチに積極的ならよかったり」