『洋蘭に魅せられたM犬の俺』-5
(4)
門番の大男が鋼鉄製の重い門扉をギギーッと鈍い音を立てて押し開けてくれた。
(うわっ……何なんだ、これは)
屋敷の中にだけ雲間から差し込む太陽の光が燦々と降り注いでいた。オーロラのように目眩い光のカーテンが束になって垂れ下がり、ヒラヒラと風に揺れているようだった。
神の御業としか思えない不思議な美しい光景に胸を打たれた。
(ああっ……これこそが麗様のお姿そのものなんだ)
神々しい光の饗宴はこの屋敷の主の麗様と無関係とは思えない。
俺は更に胸を焼き焦がし、恋しさのあまり股間をズキズキと疼かせた。老婆や門番に見られているというのに、ニョキニョキッと膨張を始めた男茎は重力をものともせずに下腹に貼りついて、卑しくいなないている。
今までに経験したことのない、猛烈に熱くて凄まじい勃起だ。
発情した本物のオス犬になったような気がした。
「さあ。門を開けてやったんだから、とっとと行きな」
海坊主のような大男が顏を真っ赤にして叫んだ。
「ほほ。チンポを大きくしちゃってるよ、このクズどもは」
見上げると、老婆が大男の革のパンツを引き下ろし、ビール瓶ほどのデカさの巨根を杖の柄を使ってしごきあげていた。
片手では握りしめられないほどの太さの肉塊には、『麗様命』という朱色の刺青が入っていた。この巨大な肉塊を持った大男は麗様に全身全霊でお仕えする下僕のような身ということだろうか。
女神なのか、魔性の女なのか、はたまた悪魔の化身なのか正体不明だが、強烈なオーラを丘陵地全体に漂わせる麗様に俺は身も心も鷲掴みにされていることだけは確かだった。
「うおおっ、やめてくれ。ワシは一か月間、麗様から禁欲を命じられてる身だっ」
門番が女のように腰をクネらせながら吼えていた。
「ほほっ、あんたもクズだからね……さあ、ここからはオマエ一人で行きな」
老婆が俺の剥き出しの尻をパシッと引っぱたいて、屋敷に飛び込むよう促した。
俺は両手両足で飛び跳ねながら、光のカーテンの奥に駆け込んだ。
黒衣一枚だけの身体に光を浴び、全身がポカポカと暖かくなってくる。
至福の時だった。
光の粒子の散乱に麗様を感じるのは頭が狂ってしまったせいだろうか。
(あああっ……麗様っ、あなたの光を全身で感じますっ)
俺は四つ足で駆けまわると、疲れをまったく感じなかった。溢れかえるほどの至上の悦びが胸をいっぱいに満たしていた。
股間が更にガチガチに膨らむのも心地良かった。
白亜の建物の周囲一帯は芝生を敷き詰めた大庭園だ。シンメトリーな設計の造園に驚かされる。鉄柵の外からは自然豊かな森のように思えた敷地は、手入れが完璧に行き届いた造形美を誇る壮大な庭園だった。
まさに別世界が目の前に開けた。
(ああっ、麗様の息遣いが感じられる素晴らしいお屋敷だ)
俺は犬のように振る舞う恥ずかしさすら忘れ、恍惚の中で転げまわった。
芝生の上で勃起した男根を晒して転げまわる俺の中で、何かが変わっていくのを感じた。
燦々と降り注ぐ柔らかな光が俺を包みこんでくれている。
そんな時に白亜の建物からメイド姿の若い女が出て来るのが見えた。
きっと俺を呼びに来たのだろう。
いよいよ麗様に会えそうだと思うだけで、心臓の鼓動がドクンドクンと脈打ち、股間にぶら下げている男根の毛細血管がビキビキと音をたててぶち切れた。
「あんたが麗様にお会いしたいという佐土健児さんね」
メイドが俺を憐れむような目で見下ろしていた。俺を初めて人間扱いしてくれて名前で呼んでくれるメイドにどこか違和感を覚えた。
絵描きとしては佐土健児と称していたが、俺の本名は土佐健だ。
「いえ。わたしは土佐健です」
ワンと吼えたい気分だった。
「ふん、土佐犬みたいな名前ね。あんたは馬鹿よ。まだわからないの?」
メイドは夢見心地の俺に冷や水をぶっかけようとした。
「麗様のあの蜜の匂いに誘われて、いったいどれだけの男が破滅していったことか。一度でもあの蜜を味わったが最後、二度と普通の生活には戻れないのよ」
メイド服とはいえ、超ミニのエプロンを纏っているだけだった。背中を覆っているものは何もなく、病的なほどか細い脚が長く伸び、その付け根は剥き出しだった。
メイドの言うことは極めてまっとうな気もした。