『洋蘭に魅せられたM犬の俺』-15
(9)
俺は反省房という名のガラス張りの牢獄に放り込まれた。
麗様からご聖水を頂いた瞬間、禁じられていたのに大量のザーメンを撒き散らすという失態を犯してしまったのだから仕方がない。
処罰としては比較的軽い方だったのかもしれない。二度と射精の出来ない身体にされても文句の言えない身だった。
髪の毛も、脇の毛も、股間の茂みも綺麗さっぱりと剃り落とされた。頭のてっぺんから足の爪先まで全身が無毛の身体だ。ツルツルの坊主頭にされたことが何よりもショックだった。まるでタコの頭だ。
ガラス張りの牢獄にそんな無毛の丸裸で、常に屋敷の使用人たちの好奇の目に晒されながら本物のセントバーナード犬と一緒に過ごさねばならなかった。
セントバーナード犬にしてみれば、元々一匹でのんびりと暮らしていた快適な住居に邪魔者の俺が転がり込んできて、迷惑千万ということだろう。
オスの12歳でカズーという名だった。実に立派な長い毛並の血統書付きの老犬だが、専ら種付け用に飼育されているらしかった。相手のメスが発情していようがいまいが関係なく、相手構わず所構わず交尾したがるように躾けられていた。
精悍な顏付きの交尾狂いの犬だが、どういう訳か麗様からひどく寵愛されているらしかった。それをいいことに、カズーは麗様以外の他の人間の言うことなど馬鹿にしてちっとも聞かない。
後ろ足だけで立ちあがって歩きまわり、股間の逸物をこれ見よがしに振りかざす姿は醜悪そのものだが、本人はいたって得意げだ。
交尾相手として俺を狙っているのは明らかだった。
油断していると繁殖用のメス犬扱いで、腰を前後に使って襲ってくる。夜もおちおち眠れない。
セントバーナードにしては、気性も荒い。
俺のことを自分よりはるかに地位が低いクズ犬と蔑視して、どんな些細なことでも服従させようとする。
体力的にもとても敵わない俺はカズーのご機嫌を窺がいながら、襲われないことをただただ祈って、隅っこでビクビクして過ごしていた。
朝夕二度与えられる餌もほとんどカズーに奪われる。
絵を描くこともカズーは許してくれない。
俺は牢獄から一歩たりとも出られないが、カズーは午後のほとんどは自由に外に出て好みのメス犬相手に交尾しまくっているようだ。
犬以下。そんな牢獄生活でも、俺は麗様を想って耐えつづけた。
一番苦しかったのは、毎日一本打たれるホルモン注射の副作用だった。
嘔吐と悪寒。
女性ホルモンを大量に注入され、体内のホルモンバランスが崩れるからだろう。一日中、身体を悪寒で震わせながら吐きつづけることもあった。
日に日にバストがぷっくりと膨らみ、肌がきめ細やかになり、骨張っていた全身にふっくらとした贅肉が付いて、女性のような身体つきに変わっていった。
元々薄かった体毛もますます薄くなっているような気がした。
そんな身体の変化が俺は嫌だった訳じゃない。
男としての性欲は減退するばかりだ。長期の禁欲状態にもかかわらずザーメンを溜め込んだモヤモヤ感は無かった。睾丸はどんどん小さく縮んでいくのに、なぜか男茎だけは更に巨大化していくのが不思議だった。
俺の心はすでに女同然になっていた。身体まで女の姿に近づいてくると、おのずと言葉遣いも女っぽくなっていた。
「13号、注射の時間よ」
朝の餌の時間が終わって三十分後には7号のメイドが反省房にやって来る。
(ああっ、だんだん女の身体になっていくのね……)
かなり丸みを帯びてきた肉尻を振り振りしながら、俺はメイドにすり寄った。
「さあ、いつものように、ご挨拶なさい」
メイドは注入の準備を始めながら命じてくる。
「はい。今日もわたしを嫌らしいメスの身体に変えるお注射をお願いします」
「ちょっと違うわね」
「ああっ。わたしは卑しいメス犬になりたい変態です。卑しいメス犬にふさわしい嫌らしい身体に変えて頂くお注射を今日もお願いします」
右腕に女性ホルモンの大量注入を受ける間も、俺はずっと淫らな尻振りを続けていなければならない。
「うふっ。ほんとに嬉しそうにお尻を振るわね」
「ああん。恥ずかしいこと、おっしゃらないで……」
注入を受けていると、どんどんバストやヒップが膨らんでくるような気がして下腹のあたりがズキズキした。俺には無いはずの子宮が疼く感覚だ。
注入されている女性ホルモンの臭いに刺激を受けるのか、カズーが近寄ってきて俺の尻穴をしきりに長い舌で舐めあげた。
「嫌あん、カズーっ……わたしのお尻の穴をそんなに舐めちゃ、嫌あ」
カズーの舌の愛撫はかなりしつこかった。
相手が音をあげるまで舐めつづけるよう仕込まれている。