『洋蘭に魅せられたM犬の俺』-10
(7)
広大な迷路のような城館の中の13号室で俺は飼われることになった。
もちろん常に四つん這いの犬のような生活だ。監獄とは言わないが、粗末なベッドとトイレが置かれているだけの部屋。
首環と鎖に繋がれていることしか、麗様の気配を感じさせてくれるものはない。
何よりも辛かったのは麗様からのお声が一度もかかってこないことだった。
あれから三週間も放置されていた。
恋しさのあまり気が触れるかと思った。
一日千秋の想い。三週間はあまりにも長かった。
その間に板の間の床をキャンバスにして麗様を想って描いた裸像は、自分でも信じられないような濃密なエロスを凝縮させた神々しい女性像だった。
俺が心の奥底に秘めていた願望のすべてが投影されていた。麗様に向けた俺の恋情のすべてが込められていた。
ためらうことなく初めて自分をさらけ出すことが出来たのだ。
観賞する者がその女性像から溢れ出す愛の雫に思わず咽喉を鳴らし、憧憬の念と欲情を同時に掻き立てられるに違いなかった。
描きたかった世界をようやく見つけた気がした。
俺はその床に描いた裸像を眺めながら、一日一日を待ちつづけた。
待つことがすべての生活は時間が遅々として進まない。
奴隷犬でも苛立ちを覚えることがある。
放置される辛さの中に麗様を感じていたが、やはり構って欲しい。
今夜は麗様が13号をお呼びだと、食事を運んできた執事から言われた時には嬉しさのあまり跳びあがって執事の足にしがみついた。
三週間放置された恨み辛みなど一気に吹っ飛んで、感涙にむせんだ。
ようやく麗様からお声がかかったのだ。
「気が向いた時だけ、ポチと遊んであげるわ」
麗様に言われた言葉が鮮烈に蘇った。
遊んで頂ける……。
俺はバラ色の雲に乗っているような気分で執事に鎖で曳かれて長い廊下を渡り、階段を上がって更に廊下を進んで、やっと麗様の寝室に辿り着いた。
三十畳はあろうかという広い寝室のキングサイズのベッドの上に麗様は悠然と横たわっておられた。
極彩色の夢のような世界だ。
肉茎は激痛が走るほど勃起していたが、オスの劣情とはまるで異なる感覚だった。奴隷犬としての俺が初めて味わう煌びやかな官能の世界だった。
「ポチね。こちらにおいで」
執事に首環の鎖を外された俺は一目散に見えないシッポを振って麗様のベッドに向かった。
泣き出したくなるほどの感動に俺の顏はグシャグシャに崩れていただろう。
老執事は能面顏のままドアの前に直立不動で立っていて、出て行く気配はない。
「長い間、よく我慢したわね……淋しかったでしょう」
漆黒の紐のようなセクシーなショーツでわずかに秘部を覆っておられるだけの肌も露わなお姿だった。羽根のような薄いガウンを羽織っておられたが、それは完璧に透きとおっていた。
俺は生唾を呑み込みながら、ベッドの脇でおとなしくステイした。
「ポチに我慢したご褒美をあげるわね」
片脚を宙に跳ね上げるはしたないポーズで、麗様は俺の視線を釘付けにした。
柔らかそうな内腿の真っ白い光沢が俺の股間を直撃した。
黒い紐が内腿の付け根を縦に走っていて、鮮やかな薄桃色の秘唇に鋭く喰いこんでいた。十代の少女のような秘唇の慎ましやかさは驚くばかりだ。
「ここではね、男も女もないの……エロスの世界に溺れると、わたしたちは男でも女でもなくなるのよ」
麗様の両手が思わせぶりにバストから下がっていき、腰から膝まで行って、徐々に内腿を這い上って股間に辿り着いた。
まるで全身を慰撫するような麗様の淫らな仕草に、俺の五感は研ぎ澄まされた。
蕩けるような甘い芳香が俺を優しく包みこむ。
(な、なんて淫蕩で、素晴らしく澄んだお貌をなさってるんだっ)
黒紐に沿ってゆっくりと上下する指先の繊細な動きを俺に見せつけながら、麗様はたまらなくエロチックな笑みを零しておられた。
淫らな仕草を俺に見せつけて愉しんでおられるのだろう。
秘肉に戯れている指先は間違いなくしっとりと濡れていた。
銀色に光る淫らな雫を宿していた。