第五十八章 蘇る悪夢-1
第五十八章 蘇る悪夢
「アズート・・・父と母のかたき」
聖堂の祭壇上でルナは横たわりながら、その言葉を噛み締めていた。
水晶と精霊の妖力により母とアズートの記憶と同化したルナは、その激しい刺激の奔流に気を失いながらも、まだ残酷な物語を頭の中でなぞらされていたのだ。
いつの間にか奥の部屋から聖剣が祭ってある祭壇へ、身体が転送されていた。
薄暗い聖堂では金色に輝き出した聖剣の光と、長い睫毛に覆われたルナの瞳からこぼれる涙がボンヤリと浮かんでいた。
あの時。
この五年間、ルナの心に何度も問われ続けていた思いが、わき上がるのだった。
(どうして・・・・?)
そう、どうして。
今、水晶を通して蘇る母と自身の忌まわしい体験がルナに切なく問いかけるのだ。
『お許し下さい、ルナ様・・・』
見え透いたアズートの命乞いに、ためらってしまった自分が悔しかった。
(だめ、だめ・・・・)
夢の中で懸命に声を出すのだが無駄であった。
残酷な物語は過去の事実をなぞっていく。