第五十三章 聖少女ルナ-1
第五十三章 聖少女ルナ
「お母様ぁー・・・」
陽だまりの庭園に、天使の声がこだました。
笑みを浮かべて振り返った王妃の姿にルナは一瞬、戸惑う程の感動を覚えた。
植栽の緑をバックにシルクのドレスをまとった王妃の青色が、鮮烈に心に飛び込んできたからだった。
「きれ・・・い・・・・」
思わず口をついて立ち止まった。
後から追いついたディオンの気配にも気づかない程だった。
「あっ、マチルダ王妃様・・・」
少年の声に振り返ると、眩しそうな目で母の姿を追っていた。
走ったせいだろうか、心なしか頬が赤く染まっている。
(ディオン・・・・)
何か熱いものが込み上げてくる。
幼い頃から共に過ごしたディオン。
兄弟のように何時も一緒だった。
二人が交わした他愛の無い約束は、当然の如く将来結婚する事である。
それでも二人は十四才になったばかり。
儀式や勉強の合間にこうして駆け回り、ふざけ合う事が最上の楽しみだった。
だが母を見つめる少年の表情が、ルナに不思議な感情を抱かせる。
切なく心を覆うのだった。