未亡人との歪な関係D-1
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祥太に強引に抱かれた週の、金曜日。
昼休憩、コンビニで買った弁当に佳織が口をつけていると、隣の席の隼人が声をかけてきた。
「今日、夜空いてますか?」
唐突にそう聞いてくる。
自宅の最寄りがお互い同じで、隼人は周りに特に何を隠すでもなく、食事に誘われることがたまにあった。
「今日?最近残業続きだったから、今日は定時で上がって、岳にご飯作ってあげたいなぁって感じ。どうしたの?」
「いや、ちょっと本間さんと飲みたくて……」
うちに来る?とは言えなかった。
最近、佳織に対して自制が効かなくなっている隼人は、岳がいようがおかまいなしなことを自覚しているようで佳織の自宅に来ることを自ら控えていたのだった。
隼人とは反対の、佳織の席の隣の社員は今ちょうど席を外していた。
それを確認して、何だか元気がなさそうな隼人に「何かあったの?」と小さな声で聞いて、肩を軽く撫でた。
隼人は首を横に振り「また連絡します」と小さな声で言った。
「もう。気になるじゃない。あんまり溜め込まないでね。今日はすぐ帰るけど、後輩なんだから何かあったら聞くよ?」
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定時を過ぎた頃、コートを羽織って更衣室から出ると、ちょうど隼人と出くわす。
「良かったら一緒に帰りませんか?」
「うん、いいけど……本当、どうしたの。元気ないよ」
元々口数が多い方ではないが、隼人は佳織には打ち解けていて、会社でもよく話をするようになった。
だが、今日は顔色もあんまりよくなく、昼に声をかけられたときから佳織は隼人を気にかけていた。
一緒に帰ろうと誘われたが、会社の最寄りまで歩く中でも話をあまりしなかった。
電車もいつも通り退勤ラッシュで混んでいるし、話もできないだろう。
佳織はそう思いながら電車に乗り込む。
佳織は乗車口に背をつけるような形になり、その対面に隼人が立っている。
電車が急カーブして揺れた瞬間、佳織は隼人の胸に体を押し付けるような体勢になってしまった。
「わ……ごめんなさい、大丈夫?」
佳織が謝ると、隼人はビジネスバッグを持つ手とは、反対の手で佳織の腰を抱き寄せる。
急な出来事に、佳織は隼人の顔を見上げた。
隼人の手は、先日の給湯室のようないやらしい手つきではなかった。
「体調…悪いとか?大丈夫?」
「体調悪いって言ったら家帰らずに看病してくれます?」
「もう、何言ってるの……。家には帰ります」
佳織も隼人の腰の辺りに手を回して、ぽんぽん、と軽く叩いた。
「うちに来るの避けてるんだろうけど、心配だからご飯くらい食べて行けば?岳には適当に言って、家まで送ってあげるから」
「マジですか…そうして頂けると助かります」
隼人はぎゅっと佳織の腰を強く抱いた。