レナ・ホリデー-1
1
遊園地に閉園を知らせる無情の音楽が流れている。
店の客足もぐっと減り、気が付けば周りにはもう誰もいない。
たいして有名でもない遊園地の客目当ての、小さなファストフード店ももう閉店だ。
最後に残ったのは子どものカップルだった。
入ってきた時、「もう閉めるんだけどね」と言うと、帰ってきた答えは少年の、「ハンバーガーとポテト」それだけだった。
ちび助たちは、いっぱしの恋人気取りで並んで座っている。
黒髪をポニーテールにまとめている女の子は、可愛く見えるように、ちょっと切れ込みの深い、えりなしのブラウスとデニムのショートパンツだ。
男の子は気取ってみせようとしているが、どうってことのない子ども服でしかない。
「『恐怖の館』へ入りたすぎ」女の子が文句を言っている。
「いいじゃんかよ、怖いの好きなんだ」
「うそ、あたしに抱きついて、胸にさわりたいだけでしょ」
「おまえだってジェットコースターで前かがみになって、ブラ見せてたじゃんか」
「そんなの見てたの」
「いいじゃんかよ、来いよ」手を女の子の腰に回して、引き寄せながら、ゆるんだ胸元を覗き込もうとしている。
≪ここはそんなことをするような店じゃないんだぞ≫
叩きだしてやろうかとも思ったが、いっぱしのプレイボーイを気取る男の子が、ショートパンツから出たふとももに手を置いて、女の子に脇腹を殴られているのを見ると、噴き出して笑いそうになった。
≪サカリのついたガキめ≫
「帰る」
立ち上がる女の子を少年が恨めしそうに見て、「上品ぶんなよ」つぶやいている。
ふたりが帰って、やっと店を閉めることができるようになった。
私はレジを締めて、客席の明かりを半分に落とした。
といっても私は店長ではない。
レジの鍵を預かってはいたが、ただのアルバイト。
遊園地が閉まるころからはほとんど客も来ないので、店長はそれまでの売り上げを持って先に飯を食いに出てしまっている。 レジの金を盗んだって、この日のアルバイト代にもならないのがわかっているのだ。
窓の外、暗くなった遊園地の券売機の下でゴソゴソしている人影があった。 ≪泥棒か?≫
でも、まさか券売機に金が残っているとは思っていないだろう。
よく、落とした金を拾いに来るやつはいる。
「コインの一枚や二枚じゃ帰れないよ」女の子の方が怒鳴っている。
やれやれ、さっきのガキどもだ。
店の戸締りを続けていると、少年のほうが戻ってきた。
「あの、バス代借してよ」軽薄な態度だ。私は胸ぐらをつかんで引き倒すと、ナイフをちらつかせてやった。
「何だと、もういっぺん言ってみろ」
「あの、帰りのバス代なくしちゃって」青い顔をして説明しなおしている。
「つかっちゃって、だろ」
「はい、つかっちゃって」素直なガキだ。
「強盗かと思ったぞ。困ってるなら金をやってもいい。そのかわり、彼女がすこし皿洗いをしてくれるならな」
「だけど、あいつがいうことを聞くかな」
「彼女じゃないのか? あの子はおまえのなんだ」ナイフの先を鼻の穴に入れてやる。
「友達だよ。ただの友達」
「そうだろうな、散々馬鹿にされていたからな」笑ってやると、真っ赤な顔になった。
「その友達が私の願いをちょっと聞いてくれるなら。帰りの足代はやろうって言ってるんだ」
「だけど」
「やっぱりな、腑抜けたやつだ。そんなこともさせられないのか。行け。ただの皿洗いだというんだぞ」ケツを蹴っ飛ばしてやった。