第四十章 正体-4
「あっ・・ああっ・・・」
男の曇った声に朦朧としていた瞳の色が急激に濃くなっていった。
信じられない衝撃が襲う。
美しい顔が恐怖に歪んでいく。
「そ・・・・ん・・・な・・・?」
汗が滲む口元からか細い声が漏れた。
「分かるか、マチルダよ・・・」
「あ、あな・・た・・は・・・?」
男がいた。
司教ではない。
僧侶様でもない。
目の前にいる。
あの男だった。
「いやっー・・・・」
マチルダの絶叫が聖堂に響き渡った。
「いやっいやっ・・・いやっー・・・」
必死にもがき叫んでいる。
「いやぁー・・・」
透通る声が悲しく濁り搾り出されていく。
「ふふふふふ・・・・」
男が笑っている。
「いやぁ・・・いやぁ・・・」
止めど無く溢れる恐怖感に顔を引きつらせながら、王妃は懸命に腕を突っ張っている。