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冷たい石
【家族 その他小説】

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冷たい石-1

イラついて
あんな奴死ねばいいのに
とか思ったのに
いざ目の前に死体があると
何の気持ちも、何の言葉も出なくなる

はじめて死体を見たのは小5の時だった。
大好きだった祖父が、その前日だけとても嫌に思えて
「死んじゃえ」
と何度も心で唱えたら
次の日の朝、死んでいた。

小さいながらに「もしかして私が殺しちゃったのかも…」と罪悪感に苛まれ、涙を流すことより、ただただ祖父の死に恐怖した。

真っ白になった祖父はたくさんの花と共に棺桶に入れられた。

石を手渡された。

アタシの手に余るほど大きな石は
冷たくて重かった。
泣きながら石で、棺桶に釘を打つ伯母や伯父。

アタシは恐怖の絶頂だった。

アタシがもう少し大人で、もう少し勇気があれば、やめてよ!と叫んでいただろう。
祖父が箱に閉じ込められていく様をアタシは震えながら見た。

人が死ぬのが怖かった
祖父が死ぬのがこわかった

昨日まで動いてた
病気もなくて、ちょっと年でテレビばっかり見てたけど
元気だった

棺桶の蓋にその姿を消されていく祖父は、寝ているようにしか見えなかった

気丈だった祖母が泣いた。
頼れる父が背を丸めた。
母がアタシの肩を抱いて放さなかった。

そんな大きな石で叩かないで
お爺ちゃんに当たったらどおするの?
閉じ込めないであげて
部屋はたくさんあるんだから、好きなところで寝かせてあげて


やっと涙が出てきたのは何年かしてからだった。
祖父の昔の知り合いに「最期はどんなだった?」と聞かれた時
アタシは棺桶に閉じ込められる祖父しか思い出せなかった。


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