第三十二章 過ち-2
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「王妃様のおなりっー・・・」
短く鋭い声を背に聖堂の扉をくぐる。
ゴクリ、と喉が鳴った。
逞しい兵士の筋肉から発せられる男の匂いがマチルダの鼻腔をくすぐった。
獣の匂いだ。
押さえ難い感情が込み上げてくる。
今、振り向いて兵士の逞しい胸に飛び込んだらどうなるだろう。
太い腕で抱きしめられる。
唇をこじ開けるように進入する舌を受け入れたら。
嫌悪すべき妄想が次々に溢れてくる。
(だめっ・・・だめ・・・)
懸命にマチルダは自分を押さえながら、聖堂の中を歩いていった。
祈りの壇上にアズート司教を見つけると、ホッとしたのかとようやく笑みをこぼした。
アズートも皺の寄った顔を崩した。
満面の笑みであった。