第三十章 匂い-1
第三十章 匂い
汗が止めど無く流れていた。
握り締められたシーツはマチルダの震える手の中で深い皺を作っている。
カーテンから漏れる朝の光がマチルダの金色の瞳に反射していた。
(また・・・同じ夢・・・)
マチルダの細い指はシーツを掴んだまま小刻みに震えている。
頬を伝う汗が落ちた瞬間、薄いしみを作った。
心を引き裂かれる程の恐怖がマチルダを覆い、胸の鼓動は早鐘を打っている。
男の血に染まった顔が鮮明に脳裏に浮かんでいた。
マチルダはシーツに顔を埋めると、声を殺して泣くのだった。
(どうして・・・?)
何度も投げかけた言葉がむなしい。
もう十数年になろうというのに。
忘れかけていた記憶なのに。
忌まわしい邪念が蘇る。
毎夜見る悪夢は徐々にエスカレートし、マチルダを苦しめていた。
最初の内は目覚めた時に記憶が無かったのに、今ではハッキリと覚えているのだ。
『ああああ、ほ、欲しい・・・』
自分が言った言葉だった。
醜悪な大蛇に絡みつかれながら腰をくねらせ求めていた。
そして無数の蛇達と交わるのだ。