第三十章 匂い-3
蛇であろうが魔物であろうが、あの男よりも数段許せる気がする。
そう、マチルダは感じたのだ。
あの男の愛撫に。
目覚める寸前、蛇から変身して自分を犯している男がいた。
忌まわしい記憶の中の男。
その男の言葉がマチルダを更に苦しめる。
全ての希望を絶つ言葉であった。
『お前は淫乱な女だ・・・』
「いやっ、いやっ・・・・」
懸命に頭を振り忘れようとするのだが、耳の底にこびりついた言葉は決して消えてはくれない。
それどころか、更にマチルダの身体を熱く火照らすのだった。
『認めるんだ、マチルダ・・・。
お前は淫乱な女だ』
何度も繰り返す言葉に、マチルダの心は抵抗を失ってしまう。
何故、なのだ。
何故、あの男なのだ。
蛇達の愛撫に踊り、オオトカゲと交わる。
そこまで獣に堕ちた自分であるのに。
それでも、あの男だけは許せない筈ではなかったのか。