第三十章 匂い-2
「いやっ、もう・・いやぁ・・・」
涙の染みがシーツに広がっていく。
嫌悪感が心に渦巻いている。
自分はこの国の王妃の筈だ。
王だけを愛する、清楚で貞淑な妻なのだ。
それが。
夢の中とはいえ。
拒む事が出来ないとはいえ。
自分から求めていた。
おぞましい怪物の生臭い舌を吸い取り、絡ませていたのだ。
「んふっ・・・んふぅっ・・・んん・・・」
ネットリした感触を今も感じる。
理性を放棄した後の官能はマチルダを獣に変え、目覚めた時に絶望の淵に追いやる。
獣におちた嬉しさが王妃である事を思い出した途端に、嫌悪感に戻されるのだった。
そして何よりも。
そう、何よりも悔しい事があった。
これ程の屈辱は無いであろう。
あれ程、嫌悪していたのに。