第二十六章 祈り2-3
「私はアズートと申す旅の僧侶です」
その男は、やんわりとマチルダの思いを否定した。
だがその声の優しい響きは、確かに心の中にしまっておいたものと同じではあった。
それでも記憶の中の僧侶と今も年恰好も同じという事は、計算が合わない。
ジューム国の事も知らないという。
マチルダはそれ以上詮索するのをやめて、王と共に司教となったアズートに神のしもべとして仕える事にしたのだった。
新しく建てた聖堂に響くアズート司教の説教は、マチルダを暖かく包んでくれた。
そしてそれ以上に、何かむず痒い感情で身体が火照るのも否定出来なかった。
司教を見つめているだけで熱い想いが込み上げてくる。
不敬な想いに戸惑うマチルダは一心に祈るのだった。
(お許し下さい、司教様・・・。
そして私を清めて下さい。
この頃、自分の中に芽生えつつある、
卑しい欲望を消し去り下さい)
細い肩が震えている。
マチルダは祈りながら朝の記憶をたどっていた。
今朝も夢から覚めたマチルダの身体は、全身が汗でグッショリ濡れていた。
それは一番熱い部分も例外では無かった。
(どう・・・して・・・?)
自分の身体の変化に戸惑いながら、思い出せない夢の熱い余韻に胸を締め付けられていたのだった。