第二十六章 祈り2-2
「祈りなさい・・・」
込み上がる欲望を押えながら微かな笑みを王妃に投げると、司教は隣りの王の頭に聖水を掛けていく。
マチルダは再び瞳を長い睫毛で覆うと、一心に祈るのだった。
とてつもない運命が待ちうけているともしらずに。
(司教様・・・・)
マチルダはアズートの前にひざまずき、尚も強く念じ祈るのであった。
(司教様はあの方の再来・・・。
この国を救ってくださった。
そして、あの時の私も・・・)
マチルダの胸に、幼い頃の僧侶の思い出が蘇ってくる。
心から尊敬し、慕っていた人に会えたのだ。
本人は否定しているし年齢も違うから、別人ではあるが。
しかし、自分としては昔の僧侶の生まれ変わりだと信じたい。
十数年前にジューム国は滅び、生きている人はいないという。
だからこそ、僧侶ソックリの男に出会えたことは奇跡としか言えなかった。
ジューム国を出てから、片時も忘れた事はなかった。
いつも父の如く暖かい微笑みでマチルダに声をかけてくれていた。
それは初恋に似た感情かもしれない。