第二十五章 飢饉-3
「あ、あなたは・・・?」
マチルダが声をかけると、男は驚いた表情でひざまずいた。
「こ、これは・・・王妃様っ」
「僧侶様っ・・・僧侶様ですよね?
私です、マチルダですっ」
男の皺がれた手を、白い指が絡むように引き寄せる。
懸命な声を出す王妃に向かって、男はいぶかし気な表情で答えた。
「すみません、王妃様・・・
私は初めて御目にかかったのですが」
そう言いながら、アズートと悪魔の魂は心の中で叫んでいた。
(やった・・・マチルダだっ・・・
ついに、出会えたぞっ)
「そ、そんな・・・」
マチルダは改めて目の前の男を見た。
間違いなく、十数年前に別れた時のままの姿だった。
だが、それが僧侶では無いという事実も示していた。
「十数年前の僧侶」と全く同じということはあり得ない。
あの時でさえ、今よりも年老いていた印象だったのだから。
目の前の男は老人ではあるが、中年に近い若さを感じられた。
いくら何でも年齢が合わない。
マチルダは自分の思い違いに顔を赤らめ、男に謝罪した。
「申し訳ありません・・・
私の尊敬していた方にソックリだったもので」
憂いをもった表情から漏れる声は、清純な響きと共に成熟した色香を醸し出していた。