第二十四章 不安-1
第二十四章 不安
アズートが僧侶として復活してから七年が過ぎていた。
アキニシス王国は平和を享受していた。
王は妻の美しさにハッと息を呑む事がある。
結婚した時の年齢が若かったとはいえ、マチルダはまだ三十歳にもなっていない。
そして、その若々しい美貌はとても一児の母とは想像もつかない。
染み一つ無い肌は透き通る如く白く、細い手首でさえ弾力を感じさせる。
スラリと長い両足がドレスの裾からのぞかせると、王の胸は今でもときめくのだった。
マチルダの瞳がほのかに金色に輝く時、王を始め人々は吸い込まれるように見つめてしまう。
きりっとしまった眉のカーブと共に、半月形の大きな輪郭が二重に縁取られ長い睫毛に覆われている。
すっと伸びた鼻筋の下にはプックリとした唇が濡れるように光っている。
豊満な胸元は深い影を作り腰のくびれを強調しているのだ。
王は妻を愛していた。
そして今も恋している。
マチルダの甘い息を胸に吸い込めるだけで幸せであった。
ベッドを共にする時の表情はどうだ。
今でも少女の如く恥じらい、声を押し殺しながら耐えている。
それでいて泉からは愛が溢れ出て、王を包んでいく。
この世で自分だけが天使を独占出来る喜びで、王の血は逆流していく。
何度でも抱きたかった。
王の手が再びマチルダのうなじを這う。
しかし、貞淑な妻はまるでそれが神に反するかの如く恥じらい拒むのだった。
ルナを生んでからは特にそうで、悲しそうに目を伏せながら懇願する。