第二十四章 不安-4
『お前は淫乱なのだ・・・』
そんな時、男の声が聞こえてくる。
以来、マチルダはなるべく床を共にせぬように努めた。
何の後ろ盾もない少女にとって、王の愛を失う事は出来なかった。
それでなくても王宮の中では、マチルダに嫉妬する者が少なくなかったのだ。
王妃にあるまじき淫乱な行為を女官達にでも聞かれたらと思うと、気が気ではなかった。
共に逃げて来ていたジューム人達は、年老いた者ばかりで皆、死んでしまった。
残された唯一のジューム人である自分を、かばってくれる者は一人もいなかったのだ。
二人の愛の絆は強い。
激しい営みは無くとも、王と王妃は心から愛しあっているから。
今では、マチルダの美貌と「貞淑な妻の振るまい」で国中の人望を集めていた。
「お母様ぁ・・・」
可愛いルナが頭に浮かぶ。
今年、十二歳になった少女は自分の幼い頃にそっくりだった。
この子を守るためにも、「貞淑な妻」である王妃であらねばならない。
この幸せを壊してはならない。
言い知れぬ不安を打ち消すかの如く、マチルダは愛する夫と娘を思いやりながら王の胸に顔を埋めるのだった。
そして、もう一度小さく呟いた。
「愛してます、アナタ・・・・」