第二十章 戦禍-1
ジューム国は火の海であった。
隣国の兵士が攻め込んできたのだ。
人々が次々と虐殺されていった。
みんな、マチルダの家族同然の人達だった。
数人の男達が、家に侵入して略奪していく。
「マチルダ、お前だけでもお逃げっ」
マチルダをかばい、切られた老婆が最後の力を振り絞ってうながす。
マチルダは首を振って拒んだが、老母は事切れてしまった。
涙を流しながら叫ぶマチルダに男達は目をギラつかせて近づいてくる。
マチルダは家を飛び出していった。
兵士達が追いかけてきた。
絶望と恐怖がマチルダの頭を駆け巡る。
ジューム国は滅びようとしていた。
わずかに残った人々は勇敢に戦ったが破れ、散り散りになっていた。
家には火がつけられ、燃え広がりながら辺りを赤く染めていた。
神殿への石畳の道をマチルダは走った。
そこは迷路の如く入り組んでいて、異国の者では直ぐに迷ってしまう。
案の定、兵士達は一人二人と少なくなっていった。
人影がなくなりホッとしたのもつかの間、男が一人追いかけてきていた。
執念深そうな顔をしている。
神殿を見下ろすテラスにマチルダを追詰めると、不敵な笑みを浮かべて近づいてくる。