第二十章 戦禍-2
「へっへっへっへ・・・」
傷だらけの顔を歪ませて笑っている。
その時、数本の矢が飛んできた。
「ギャーッ・・・」
男は何本かの矢を突き刺したまま、神殿に向かって落ちていった。
「大丈夫か、マチルダ・・・・?」
老人達の集団だった。
「村はもう全滅だっ。
お前だけでも逃げるんだっ・・・」
「アイツはどうした、死んだか?」
「いや、まだ動いている・・・」
テラスから覗く老人の声にマチルダも恐る恐る見ると、さっきの男が神殿の門の前でうめいていた。
「ううっ・・・い、痛ぇよぉ」
さっきの残忍な表情は消え、痛みと恐怖に引きつった顔はまるで子供のようだった。
マチルダの優しい心に、哀れみの気持ちが込み上げてしまう。
「トドメを刺すんだっ・・・」
老人達は神殿へ目指して迷路に向かっていった。
一人残されたマチルダは一瞬ためらっていたが、キッと顔を上げるとヒラリと飛び降りていった。
少し強く足を打ったが何とか無事に着地した少女は、血だらけでうめいている男を肩に担いだ。神殿への道に人影が無い事を確認すると、石門をくぐり奥へと急ぐのだった。
マチルダの力では運ぶのが大変だった。
しかも男は愛する老婆や村人を殺した憎い仇の筈なのに。