第十九章 傷追い人-2
「大丈夫・・・しっかりして」
「ううっ、水・・・水をくれ」
血で曇る目を男はマチルダに向けた。
マチルダは腰につけた筒を取り出すと、男の口に近づけてやった。
時折むせるようにしながら、男は喉を鳴らして飲んでいく。
マチルダの瞳が揺れている。
金色の光を宿して。
「ふーっ・・・・」
人心地ついたのか、男は血だらけの顔を歪ませて声を出した。
「な、何だって俺を助ける・・・?」
男の目がギラツイテいる。
欲望を宿す、濁った色だ。
男は改めて少女を見つめていた。
ろうそくの火が少女の顔を照らしている。
薄いグリーンの髪が揺れている。
今年十五才になったばかりの身体は、幼いながらも丸みを帯びて女らしくなっていた。
男の問いに少女は答えられなかった。
自分でも分からなかったのだ。
(何故、助けたりしたのだろう・・・?)
マチルダの心は後悔の念で一杯だった。
自分の国を滅ぼしに来た男なのに。
マチルダの脳裏に、地獄の光景が蘇る。