第十七章 祈り-4
しかし無駄であった。
五年の間、毎日の如く祈ってきたのだが何の変化もなかったのだ。
祈り終わり、顔を上げた時にルナの目に奥の間の扉が映った。
そこは以前、司教の部屋であった。
少しでも忌まわしい想い出を無くそうと改装はしたのだが、記憶は消せる訳ではない。
恐る恐る、ルナは扉を開けた。
今でも思い出してしまう。
母が犯されていた。
尊敬し、慕っていた司教様に。
その男は実は悪魔の化身だったのだ。
今は亡き父母の遺品を保管している。
せめて聖剣が見守る場所の近くにと母の霊を弔いたかったのだが、さすがにアズートの部屋に置くべきではなかったかもしれない。
ルナは母の手記を取り出した。
辛く悲しい時、ルナはそれを読む。
父と結婚してからの事が書いてあった。
一時ではあるが、ルナの心は慰められるのだ。
ルナが生まれた時の喜びや成長していく様が克明に描かれていた。
しかし終わり近くまでくると、ルナは本を閉じるのだった。
アズートとの出会いが書かれてあった。
この憎むべき悪魔を心から尊敬し、慕う父母の様子が痛々しく感じてルナには読めなかった。
父母は悪魔の企みを見抜けず、洗脳され死んでいった。
そしてルナ自身も呪いを受け、苦しんでいる。