第二十九章 アズートの呪い-1
第二十九章 アズートの呪い
血塗られた祭壇には地獄の狂宴の後が生々しく残っていた。
何時までも泣き止まぬルナの肩にディオンがそっと手を置いた。
「ルナ・・・」
ルナはその優しい微笑みに更に顔を崩すと、その厚い胸に飛び込んでいった。
「ううう、ああ・・あああー・・・」
忌まわしい記憶が容赦なくルナを襲う。
こうして抱かれている愛する男の前で司教に犯されたのだ。
しかも、自分から腰を使って嬉しそうに喜びの声を上げていた。
ディオンもそうだった。
愛する恋人の目の前で事もあろうに、ルナの母であるマチルダ王妃と交わったのだ。
自分のものを咥えさせ、王妃の蜜に舌を這わせ美味しそうに味わったのだ。
この罪の記憶は一生消えないであろう。
あれ程の苦難に立向かった二人の愛だったのに。
いくらアズートの術におとしめられたとはいえ、残酷過ぎる記憶であった。
それでも二人は顔を向かい合わせると互いの名を心で呼んだ。
(ディオン・・・)
(ルナ・・・)
そして唇を重ねると、激しく舌を絡め合った。
(あああ・・ディオン、愛しています)
(僕もだよ、ルナ・・・愛している)
幽玄の時が流れていく。
真実の愛がそこにはあった。
悪魔の血に汚された二人の身体が金色に包まれていく。
二人は顔を離すと互いの瞳を見つめて微笑んだ。
そしてディオンが優しく言った。
「一緒に死のう・・ルナ・・・」