女らしく【11】『ゲームと王様と月見酒』-5
多分敷居の向こうでは大和達も寝てるだろう…
頬を軽く撫でる。さっきまでの感触が蘇り、笑みが零れ落ちた。
コトッ…
「ん?」
「あっ…悪い…起こしたか…」
窓辺の椅子に腰掛け、稲荷が月を見ながら飲んでいた。
「ううん。その前に起きてたから」
今宵は満月。雲一つ無い夜空にポッカリと月が浮かんでいた。
「目が覚めちゃったから、少し寝酒に飲もうかな…オレもそっちに行っていいか?」
「ああ…日本酒でいいならな」
開け放した窓から虚空を見上げ、相変わらずぶっきらぼうに返事をした。
「稲荷も寝れないのか?」
「…ちょっとな…」
面倒臭かったので湯飲みを持って稲荷の向かいに座る。
奏とは違う感じの金髪が黄金色の月光によく映えている。
「九条の何処が良いんだ?」
湯飲みにトクトクと酒を注ぎながら稲荷が聞いてくる。
「全てかな♪幼い頃から一緒にいて…気付いたら好きになってたんだ」
また頬に感触が戻る。
「稲荷は誰かと付き合ったこととかあるか?」
「昔な…」
「どんな人だ?あっ…どんな狐だ?」
「人だよ…乱暴で…かっこよくて…強くて…それでいて優しかった…」
稲荷の目に悲しみの感情が滲む。
「でも…俺はそいつを助けてやれなかった…」
湯飲みに口をつけ、中身を少しだけ飲んだ。
敢えて何があったかは聞かなかった。稲荷の表情はとても辛そうだったから…
「ごめんな…悪いこと聞いちまった…」
「いや…いいんだ…それよりマコト…もう一つ聞いていいか?」
稲荷は月明かりの中、問う。
「輪廻転生って信じるか?」
「りんね…ああ、生まれ変わりとか、前世とかだろ?」
何故その質問が出たかは分からなかった。
「マコトはどう思う?」
「あるかどうかは知らないけど…あったら面白いな♪なあ、オレの前世ってどうだろう?意外とさお姫様とかだったりして♪」
「無い無い♪」
稲荷にようやく笑みが浮かんだ。
「マコトの前世はきっとあんまり変わりねえよ…がさつで…明るくて…優しい…」
「なんだよそれ♪そうだ…稲荷…今は好きな奴いないのか?」
「いるよ…」
「誰だ?奏?ミリィ?意外と撫子さんとか♪」
「お前…」
稲荷は真っ直ぐに見つめている。ちょっとドキッとした。