休暇-3
銀三は声の主が分かり振り返ると真理子が立っていた。
「どうして、俺の行きつけのパチ屋知ってんだ?」
と苦笑いして聞く。真理子は微笑み、
「あのビルに行ったんです。」
「管理人室の有る、解体工事中でした。」
「そこでビルの所有者の方に会い、銀三さんの行きそうなパチンコ店の場所をここを含めて聞いたんです。」
と説明する。銀三は反応して、
「そう言えば、オーナーとは一度だけこの店で会ったな。」
と今まで打っていたパチ屋を見て話す。真理子が思い出した様に、
「オーナーが銀三さんと連絡取りたいとおっしゃってましたよ。」
と伝えると銀三は、
「あっちゃー、番号変えたの教えて無かったわ。」
と笑うと早速をスマホを操作して通話を始めた。
「銀三です、この番号が今使ってるやつなんで。」
「ええ、そうですか!」
「助かりますよ、ええ近い内行きますよ。」
と相槌を打ちながら何やら話している。銀三は電話が終わると真理子を見て、
「ありがとうよ、伝言。」
と礼を言う。真理子は笑顔で、
「どういたしまして。」
と言った後、
「私がしつこく何回も電話したから番号変えたんですか?」
と聞く。銀三はまた苦笑いする。真理子は気まずい表情を浮かべ、
「やはり、そうなんですね。」
「申し訳ありませんでした。」
と頭を下げる。銀三は手を振り、
「良いよ、でもアンタ流石ヤクトリだな。」
「俺の事、簡単にめっけて。」
と驚いていた。真理子は顔を振り、
「たまたまです。」
「偶然、ビルのオーナーに会えたんです。」
と正直に話す。銀三は真理子を見て、
「話が有るんだろう?」
「道端で話すのも何だし。」
と考え、
「オーナーに聞いたか、俺のアパート近いんだ。」
「そこで良いか?」
と真理子に聞く。真理子は黙って頷くので、
「ちょい弁当屋に寄るからよ。」
と言うと踵を返して大通りの歩道を二人して歩いて行く。5分位歩き、余り広く無い枝線道路に入るとすぐにチェーン店では無い弁当屋が有った。銀三は真理子に、
「アンタ、何弁にする?」
と聞いてくる。真理子は、
「大丈夫です。」
「少し前に済ませました。」
と答えた。先程のパチンコ店に来る前にファーストフードの店で軽く済ませたのだ。銀三は頷き弁当屋に入ると注文した。店員がいつもどうも応じている事から常連客なのが窺えた。店内には他に数人の客がいた。
大して待つ事も無く弁当を持った銀三が出て来た。銀三は、枝線の奥の方に進んで行く。更に5分弱歩いた所で路地に入るとブロック塀に囲まれた古い二階建てのアパートが有った。
銀三は、二階への階段を上がり真理子も続く。二階の一番奥の部屋の前に行くと銀三は鍵を取り出し開け、
「先に入って、上がってくれ。」
と真理子を先に入らせた。真理子は、
「失礼します。」
と言うとパンプスを脱いで室内に入る。真理子は仕事柄すぐに観察する癖が付いており、ざっと室内を見回した。中は小綺麗にしてあり、物もあまり置かれて無い。
キッチン、トイレ、小さいながらもバスルームも付いていて、その隣の広く無い小さなテーブルが置いてある畳敷の部屋が居間兼寝所と言ったところか。銀三は、押し入れから座布団を取り出しテーブルの所に置くと
「使ってくれ。」
と言うとキッチンの方に向かう。真理子は軽く頭を下げ、
「すいません。」
と言い、座布団に正座した。室内は掃除をこまめにしてあるのか埃など見られない。銀三が缶ビール二つに弁当を持って真理子の向い側に座り缶ビールを一つ押しやりながら、
「休みだろう?」
「飲んでくれ。」
と勧めてくる。真理子は少し迷ったが、銀三は今は捜査とは関係ない一般人と言う事も有り、
「ええ、休みです。」
「頂くわ。」
と言うと缶ビールを受け取る。銀三は、
「俺は弁当を食うよ。」
「アンタ、話有るんだろう?」
と用件を話す様に促す。真理子は、
「銀三さんが食べ終わったら話すわ。」
と答える。銀三は頷くと缶ビールを開けてゴクゴク飲む。それからスタミナ弁当をガツガツ食べ始めた。真理子も缶ビールを開けて少しずつ飲んでいく。
銀三はあっという間に食べ終え、お茶代わりにビールをゴクゴク飲むと立ち上がりキッチンに行く。空になった弁当をゴミ箱に捨て冷蔵庫から追加の缶ビールを二缶持って戻ってくる。
新たな缶ビールを開け、ゴクゴク飲むと真理子の前に缶ビールを置く。真理子が笑い、
「結構です、これで足りるわ。」
と言い、最初の缶ビールに口を付ける。