女らしく【10】『水着と浜辺と海水浴』-5
海の家が建ち並ぶ一画。焼きそばなどが焼ける香ばしい匂いと音がする。
その中の一軒の店の前で大和が並んでいた。
良かった…変な女に誑かされてたわけじゃないんだ……
大和に駆け寄ろうとしたとき…
「アレ？一人？今暇？良かったら一緒にどう？」
典型的な誘い文句。オレと大和の間に長髪と茶髪と剃り込み入りの坊主が割り込んできた。
「俺らも暇なんだよねぇ♪良かったら一緒に遊ばない？」
馬鹿丸だしの台詞。相手にするのも阿呆らしい。
「…」
一瞥して無言で立ち去ろうとする。
「おっと！もうちょっといいじゃん！」
その行く手を茶髪が塞ぐ。
何かイライラすんな…
「退け、オレの前に立つな！」
静かに怒りを込めたつもりだったのだが…
「オレだってさ♪」
「えっ！？まさか男？」
「馬鹿だな。こんなに胸があるんだから女に決まってんじゃん！でも男言葉ってのも良くなくない？」
この馬鹿共はヘラヘラ笑ってやがる。脅しが効かないコイツらはよほどの大物か馬鹿…
でも、多分後者だろう…
「退け！邪魔だ！」
「それってキャラ作り？」
坊主がニヤニヤしながら聞いてくる。
茶髪と長髪もそれに合わせて何やら勝手なことを言っている。
「それはそれで可愛いからさ、俺らと一緒に遊ばぼうよ♪」
茶髪の手が肩を掴む。
もう限界だった……
キャラ作りだと…ふざけんじゃねえよ……
この性格…言葉遣い…全部…役作り…まやかしだったらどんなに良かったか…
「とにかくさ俺らと……」
ドスッ！
茶髪の鳩尾に拳を突き入れる。茶髪はそのまま膝から崩れ落ちた。
「なっ！テメェっ…」
突出してくる長髪のこめかみに鋭い上段蹴りをあびせる。コイツも簡単に倒れこんだ。
「な、ナメんな！」
坊主が手を伸ばす。それを掴み、捻りながら足を払う。坊主は一回転して俯せに砂浜に倒れる。
その手を離さずに今度は関節と逆に曲げていく。
「あがっ！やめっ、いたっ…」
貴様らにオレの苦しみが理解出来んのか？
女らしくしたいと思っても出来なかった子供時代が分かるのか？
家督を継ぐ為の理不尽な教育を受けたことがあんのか！