第二十二章 地獄の風景-5
どうして、ここにいるのだろう。
幼いルナの心は無意識に目の前の光景を否定しているのか、麻痺していくのだった。
(ルナ・・ルナ・・・)
遠くで声がする。
ひどく懐かしく聞こえた。
「ルナ・・こっちを見るんだ、ルナ・・・」
今度はハッキリと聞こえた。
ルナが振り返ると、白かった心が一瞬にして灰色に染まった。
得たいの知れない強い意識が飛び込んできたのだ。
ネットリとした生温かい物が心を包む。
何故か安心するような気がした。
「剣を放すのだ、ルナ・・・」
アズートが立ち上がっていた。
しわがれた顔にうずまる灰色の瞳を輝かせて、ジッとルナを見つめている。
「返事をするのだ、ルナ・・・」
老人の最後の言葉に反応して、ルナの小さな唇が開いた。
「は・・い、司教様・・・」