第十六章 戦士-1
第十六章 戦士
「フーッ・・・」
畑を耕していた手を休めて顔を上げると、遠くでルナが手を振っているのが見えた。
ディオンも笑顔で手を振った。
あれから一週間が過ぎていた。
ルナの体力は見る見る内に回復し、もう起きて家畜の世話を出来るまでになっていた。
毛むくじゃらの男は、キエフという名で無口だが親切であった。
二人に与えてくれる食料も新鮮な果物やヤギの乳、干し肉等栄養満点の物ばかりであった。
髭の中に隠れる瞳の奥には、優しい光を感じ取る二人であった。
「本当、良かった・・・」
ルナはヤギの乳を飲みながら、嬉しそうに言った。
「ああ、そうだね。
キエフはとても親切だし、
村の人達もいい人ばかりだ」
二人は今日の仕事を終えて食事を取っていた。
一日で最も楽しい時間であった。
粗末な家畜小屋が豪華な二人の居間であった。
二人は城の中の生活よりも遥かに充実した気持ちを感じていた。
「不思議だわ、こうしていると何年も前からお百姓さんだったみたい」
「ああ、みんな一生懸命に仕事をしている。
それに比べて僕達貴族は何をしていたのだろう。
そして今でも司教達を中心に重い税と徴兵で
人々を苦しめているんだ・・・。
この食料も無理にキエフが揃えてくれたらしい」
「まあ、そうなの・・・?」
ルナにも薄々は解っていた。
時折訪れる城の兵士や役人達が、無理やり穀物を持っていったり男達を兵にとっていったりするのを目撃したのだ。
急に食欲が無くなったルナは俯いてしまった。
ディオンが慰めるように言った。