第十一章 故郷-1
「ええっ・・そ、そんな・・・?」
城から離れた樹海の片隅で、二人は身体を寄せ合っていた。
ディオンが持ってきた食料を少しだけ食べた後、大きな木の躯の中で眠る事にしたのだ。
寝物語にポツリポツリと繰り出すルナの話に、ディオンはさすがに自分の耳を疑った。
「王妃様が・・司教に・・・」
ルナは司教の正体を大トカゲとだけ言い、二年に渡って王と王妃の生気を魔力で吸い取っていた事を話した。
しかし、見た通りの母と司教との痴態については表現をぼかした。
自分でも早く忘れたかったのと母を崇拝しているディオンの気持ちを思うと、とても本当の事を言えなかった。
(だってお母様があんな姿で・・・。
そんな事、決して言えはしないわ)
ルナの心にハッキリとつけられた記憶の刻印は、一生忘れられる物ではなかった。
そして何よりも、二人の痴態を見ながら自分も昇っていった等と・・・。
あの時のネットリとした快感が、まだ身体の中に燻っている。
ルナは堪らずディオンの身体に、ぶつけるように抱きついた。
「ル、ルナ・・・」
戸惑うディオンの胸の中で、細い肩を震わせながら少女は言った。
「抱いてっ・・抱きしめていて、ディオン。
怖いのっ、私・・怖いの」
ルナの心の痛みが、ヒシヒシと伝わってくる。
ディオンはそっとルナの水色の髪を撫でると、優しく囁いた。
「大丈夫・・僕がついているよ、ルナ。
安心して眠るんだ、愛しているよ」
「ディオン・・・」
ルナが顔を上げた時、急に恥かしくなってディオンは顔を赤らめた。
そんな男の仕草が嬉しくてルナはクスッと笑うと、短い口づけをディオンに投げた。
そして再びディオンの胸に顔を埋めると、幸せそうな声を出した。
「あったかーい・・・・。
私も・・私も大好きっ、ディオン・・・。
愛しています・・お休みなさい」
やがて少女は、天使の微笑みを浮かべて夢に旅立っていった。
ディオンもその温もりを愛おしそうに抱きしめながら、眠りに落ちるのであった。