第十章 逃亡-2
二人の間で説明は不要であった。
ルナの心が恐怖で満たされている。
こんな事は初めてであった。
ディオンには、それだけで十分だった。
「これを着て・・・。
その格好じゃあ、怪しまれるから」
ディオンが差出したのは戦士の服であった。
ルナは小さく頷くと、ドレスを脱いで着替え始めた。
ディオンは慌てて後を向くと、顔を真っ赤にしながらカバンの中に食料等を摘め込んでいった。
そんな男の仕草をルナは嬉しく思った。
だが、これから訪れる幾多の苦難を思うと、愛するディオンを巻き込んだ事を後悔するのだった。
月が顔を出して二人の身体を照らした。
城を抜け出て樹海に入った二人の影が長く伸びて、やがて闇に溶けていった。
始まったばかりの二人の愛が、混沌とした地獄に巻きこまれていく瞬間だった。