第九章 ディオン-2
「イヤッ,イヤッー・・・」
アズートの・・・尊敬する司教と思っていた大トカゲの笑い声が、頭の中で響いて鳴り止まない。
ルナの精神は崩壊寸前であった。
三年前からの怪物の記憶が、意識の塊となってルナの心に飛び込んできた。
清純なルナには耐えられない事であった。
全てアズートの罠だったのだ。
三年前の飢饉もアズートの魔力のせいだったのだ。
怪物の意識の片隅に、ルナの愛する男の名を見つけると気が狂いそうであった。
(ディオン・・・とかいったな。
丁度いい・・・。
ルナの男として精々逞しくなって
もらわなくてはな・・・。
王にやった薬でも飲ませてやるか、
ウハハハハ・・・)
「ディオン、ディオンー・・・」
ルナは懸命に愛する男の名を呼んだ。
やっと貴族屋敷の傍に来たが、力が尽きてしまった。
先程使ったパワーが、著しく疲労を与えていたのだ。
逃げなくては。
このままでは、ディオンも巻き込んで地獄が繰り広げられてしまう。
「ディオン・・ディオン・・・。
助けて・・ディオン」
男の住む屋敷の前の庭に倒れ込むと、ルナは気を失ってしまった。
あたりはもう、日が暮れて闇になっていた。