第一章 樹海-2
「ヤメテッ、来ないでっ」
楽器の音色のような美しい声が、男達の欲情を更にそそらせる。
賞金目当ての盗賊である彼等には王女を敬う気持ちは無く、それよりも高貴な獲物に対する不条理な欲望を募らせるだけであった。
一歩一歩、男達の足が近づいてくる。
「へっへっへ・・・」
男達の漏らす笑い声が、不気味にルナの心を締め付ける。
息苦しさに耐えかねて、唇から荒い息が漏れる。
大きな木の幹に両腕を廻し、恐怖に引きつった表情で唇を震わせている。
「いやよ・・いやぁ・・・」
男達の股間は足を踏締める度に、はちきれんばかりに膨らんでいく。
樹海の闇の中で、三人の口が薄汚れた歯を見せて笑いを浮かべている。
ルナの瞳が更に強く金色に光る。
追い詰めた獲物をジワジワと取り囲みながら、男達のゴツゴツした腕が伸びてくる。
浅黒い手の一つがルナの白い腕に触った瞬間、閃光が男達を襲った。
「ウギャッー・・・」
ルナ達からかなり遠く離れた場所で集まっていた兵士達の目に、樹海の真中から立ち昇った金色の光の柱が見えた。
それはまるで黄金の竜の如く空を舞ったかと思うと、虹色の光に分散して消えていった。
暫らく呆然と見送っていた兵士達は我に帰ると、光の元へと馬を走らせた。
「それー、姫様はあちらだぞー」
指揮官の号令が樹海に木霊していく。
カムヤの木の周りで横たわる三人の盗賊を残して、金色の光が闇の中を走っていた。
ルナのブルーの髪が逆立っている。
瞳の光が全身を覆うように強くなっている。
妖精の姿に、樹海のケモノ達は木々の上と下から守るかの如くついていく。
自分のパワーの余韻に包まれながら、ルナは流れる汗と共に涙で瞳を滲ませていた。
(ど、どうして・・こんな事に・・・。
ああ・・お父様、お母様・・・)
遠くなる意識の中で、ルナは平穏だった日々を思い浮かべていた。