深夜の管理人室-1
課長室に山田がやって来て、
「車の持ち主は、菅原拓と言う名義になっています。」
「届出の住所に向おうと思います。」
「後、車のナンバーを警察の番号探索システムに掛けてはどうかと。」
と報告する。自動車の監督官庁に問い合わせたのだろう、先程捜査を命じてから時間も経っていない。山田は仕事が早い、それもこの任務を任せた理由だった。真理子は唸り、
「警察のシステムを使えば、今何処にこの車が有るのか分かるかも知れない。」
「だけどその分、情報漏えいの危険性が高まる。」
「先ずは、その住所に当たって頂戴。」
「どうしても車の持ち主が見つからない場合、警察のシステムに頼りましょう。」
と命じる。山田は、
「分かりました。」
「直ちにこの住所に向かいます。」
と言うと真理子が、
「相手は半グレの可能性が有る。気をつけて。」
「そして、くれぐれもこちらが捜査している事を悟られ無いで。」
と山田の顔を見て話す。山田は顔を引き締め、
「はい、慎重に行動します。」
と言い、真理子が退室を認めると一礼して部屋を出た。
真理子は、夕方前に銀三から知らない番号での電話の着信を受ける。銀三は公衆電話まで行くのが面倒だと言い、この番号を登録しろと言う。
そして、拠点の中の人物からの情報だと銀三が話した内容にショックを受ける。半グレは痴漢もレイプも止めたらしい、取締の為だと言う。警察の警ら活動で痴漢を止めたのはともかく、ヤクトリの捜査が半グレに察知された事は予想外だった。
他所で客の注文を取り拠点に伝え、ツープッシュを配達と宅急便で客に届けていると聞いて半グレグループが十分に顧客を獲得したと見るべきだろうと思った。そして売買のプロセスにより慎重になっている事を窺わせる。
真理子は、半グレの連中が思っていた以上に販売網を拡げ自分達を出し抜いていると思った。真理子は、電車での痴漢の内偵をしていた捜査官達を支部に集合させるべく連絡を取る。
部長に電車での内偵捜査中止を鉄道公安課に伝えて貰い、その捜査官達を自分が得た情報に基づき捜査させる旨を伝える。
部長は、その場ですぐに鉄道公安課に電話して電車の内偵捜査を終え通常業務に戻すと伝えると向こうもすんなり了承したと言う。
例の凶暴な痴漢グループがなりを潜めている事から応援の本庁の捜査官や所轄の警官達を通常に戻す話が有るらしい。
部長は真理子に情報源を聞くが真理子は明かせませんと拒否した。部長は頷く、真理子は徹底的に情報源を守る事で知られていた為だ。
「分かっていると思うが、結果が出なければ責任を問われる事も有る。」
と部長は諭す様に話す、真理子は深々とお辞儀をして、
「はい、承知しております。」
「今、暫く時間を下さい。」
と答える。部長は認めるも時間は余り掛けれないぞと話す。真理子は、成果を挙げなければ捜査の指揮権を失う事を理解する。
真理子の代わりに別の課長が来て指揮するか、別の課が引き継ぐか上層部で話が出ているのだろうと思った。
真理子が、部長室から自室に戻って間もなく山田から連絡が入る。写真の男は、車の所有者の菅原本人で住所も車の住所と同じで今帰宅して来たと言う。
早くも拠点の配達人の氏名が判明し、報告する山田の声も上ずっている。照会の結果、菅原には前科は無かった。山田の報告では、菅原の自宅は県境に近く二階建ての建物だと言う事だ。
一階は雑貨の店舗になっておりネット検索すると菅原が経営者になっていると言う。二階は居住スペースみたいらしい。若い女性が好みそうな物が置いて有るみたいで女性客が度々店舗に入って行くとの事だった。真理子は、
(監視し易い、幸運だわ。)
と喜ぶ。山田に菅原宅の張り込み出来る場所の確保を命じる。捜査課に行くと、呼び寄せた電車内偵班の部下達がほぼ集まっていた。そこで真理子は、電車の内偵の労をねぎらうと任務終了を告げ新たな任務を命じる。
今日、判明した拠点に出入りする半グレのメンバーを疑われる、菅原拓の尾行及び尾行先の内偵任務だと明らかにする。部下達からどよめきが起こる。拠点の発見は聞いて無かったからで有る。
真理子は拠点の場所を聞いて来る部下達を制して、拠点の場所は言えない。何故ならその情報をもたらした人物との約束だと述べ、その拠点は真理子自身が協力者の助力の元監視に当たると話す。
部下達はザワザワと話すのを真理子は苦笑いして静かにさせる。菅原は、拠点にツープッシュと売上金の回収に毎日向かうと言い、他の拠点にも出向く可能性が有るとして明日から菅原の尾行捜査開始を告げる。
副主任の山川に、時間を見て山田達の交代を送る事と明日からの尾行捜査の体勢の詳細を詰める様に命じる。張り切って山川がみんなを集めて協議を始めた。
銀三は仕事前にsdカード交換の為、管理人室に寄った。午後は元喫茶店の拠点の出入りが多くなる。7人が外出しては一時間前後で戻っていく。みんな複数回出入りしていた。その中に、リュウがいた。
みんな小さな手荷物を持っていたが、中にはダンボールの小箱を持っている者も数人いた。リュウは3回出入りして二回目はダンボールの小箱を持って外出していた。銀三は、
(宅急便で送る分だろうか?)
と思った。仕事前に早目の夕食用に買って来たコンビニ弁当を食べているとイチからメッセージが来る、
〈リュウからまた連絡有った、電話して良い?〉
と有る。銀三は笑い、
(またか、イチも忙しいな。)
(そんなにリュウの事が心配なのか。)
(リュウのヤツ、イチの気も知らないでいるんだろう。)
とやや憮然に思いながら、イチに電話しようとスマホを操作する。