混乱-5
銀三は、自分のアパートに戻り途中で買った弁当を食べる。女をベンチに置いた後、パチンコで少し遊んだが、少し玉が出たところで早めに切り上げ帰ったのだ。
最近は余り粘らず、夕食やビールを買う位勝ってるなら打つのを止めて帰る様にしていた。スマホを慣れない手付きで操作して、イチに改めて今日のサポートの礼を伝える。
〈今日は、ありがとうよ。〉
〈あれから、どうした?次行ったか?〉
とメッセージを送る。すぐに、イチから
〈みんな、帰ったよ。〉
〈その方が安全だと思ったからね。〉
と返ってくる。銀三は頷き、
(流石、イチだ。すぐに引き上げるのが正解だ。)
(俺が獲物にしたのは、ヤクトリだからな。)
と思い、
〈みんなに、俺の鹿が桜だと教えたのか?〉
とメッセージを送ると、少し間が有り
〈教えたよ、いつもと違う桜だとは言って無いけど。〉
〈気にしなくて良いよ。〉
〈みんな銀さんに世話になってる。〉
〈だから、リスクを承知でサポートしたんだ。〉
とイチから返って来た。銀三は、メッセージを返信するのにイチの時間の数倍掛かると思いながら、
〈ありがとうよ。〉
〈霧吹きの事は他の連中に話したか?〉
と返信する。暫くして
〈話して無いよ。〉
〈銀さんの言う通り、話さない方が良いと思う。〉
〈何か有っても、知らない方が身を守れるよ。〉
とイチがメッセージを送って来た。銀三は自然と相槌を打ち、
(俺達以外の奴等に内緒にするのも気がひけるが。)
(サツに捕まった時に知らない方が罪は軽いだろう。)
(知らないヤツが多い方に越した事は無い。)
と思った。入力を間違えて直すのに時間が掛かり舌打ちしながら、
〈今日乗った◎◎線には暫く乗車しない様に言ってくれ。〉
〈ほかの線も注意して、様子を見てくれ。〉
〈みんなに、よろしく言ってくれ。〉
とメッセージを送った。すぐにイチから、
〈伝えるよ。〉
〈乗車も控える様に言う。〉
〈また、連絡するよ。〉
と返って来た。銀三は微笑みながらもイチはどうやってあんなに早く返せるのか不思議だった。
(俺が遅過ぎるのかもな。)
(痴漢みてえに行かねぇな。)
と笑った。そして、風呂に入ろうと干して有ったタオルを取り鼻歌混じりに浴室に向かった。
真理子は、夜中過ぎに自宅のマンションに付く。最近は午前様が普通だった。夫は、先に帰宅した様だ。子供達の食事は、今日も義母が用意してくれた。その事を夫がメッセージで教えてくれていた。
真理子が、浴室に向かおうとすると夫が起きて来た、
「ごめん、起こした?」
と真理子が申し訳無さそうに言うと夫は首を振り、
「おかえり。」
「大丈夫だよ、仕事してた。」
と笑って返す。公判の反対尋問の下書きをしていたらしい。真理子の顔をじっと見て、
「顔、赤いよ。」
「風邪?」
と心配する。真理子は首を振り、
「平気よ。」
「何とも無いわ。」
と笑顔で返す。部下達からも心配された。実際、気分は悪く無い。夫や部下達には、言えないが原因は明白だ。ツープッシュのせいだと思った。体内に未だ残っているのだろう。
自分でも、部下達に合流する前や支部に行った時にトイレで見たが中々顔の赤みが取れない。身体の敏感さは無くなり、普通の状態に戻っていた。真理子は微笑み、
「お風呂に入るわ。」
と言うと夫は頷き、
「僕は、そろそろ寝るよ。」
「おやすみ。」
と寝室に向かう。真理子はその背中に、
「おやすみ。」
と返して浴室に向かった。もちろん、夫にも今日真理子に起こった事は言えない。真理子は浴室に入るなり、頭上からシャワーを強目に浴びる。
そして、隅々まで身体を洗っていく。そして、浴槽に浸かり目を閉じた。電車で、男にされた事が鮮明に思い出されてくる。
男にツープッシュを盛られた時は、身体の敏感さに加えて運動機能も制限されて思考力もかなり弱まっていたと今なら分かる。
だが記憶はされていて、男が如何に自分を弄んだか思い出せた。真理子は目を閉じ、
(記憶力は制限されないのか。)
(男が触った感覚も覚えているわ。)
と記憶を手繰る。激しく自分の胸を揉んだ感覚も自分の性器の中に指を入れて余す事無くイジくり回した事も覚えていた。
自分の性器を恥ずかしい位濡らし、男が指を上下した時には大量に体液が流れ出た事も思い出される。
(何回逝ったんだろう…)
(分からない位絶頂させられる何て!)
(しかも指で…)
(あんなに逝ったの初めてだわ。)
と思っていると、いつの間にか左手で胸を揉み、右手の指を性器に入れ動かしている自分に気付く。真理子は慌てて、両手を離して目を閉じた。
(何をやってるの!)
(痴漢されたのよ!)
と自分を叱り付けて落ち込む。そして、
(ツープッシュの効果のせいよ。)
(あの男の痴漢に感じた訳じゃ無い!)
と自分を慰める。真理子は、もう一度シャワーを浴びると浴槽のお湯を抜き浴槽を洗う。身体を拭き髪を乾かすと寝室に入った。夫を起こさない様に静かにベッドに入るとすぐに眠った。