また明日-1
黄昏時
オレンジに染まる教室の空気
まるで、校庭にある紅葉した木葉から色が染みでたみたい。
窓から入ってくる秋風に乗って聞こえる、吹奏楽部の演奏や、野球部や陸上部の掛け声。
こんなに穏やかな放課後を、私はあと何回過ごせるのだろう。
あっと言う間に駆け抜けた高校生活。
岩瀬絢芽、高校3年生。
今年が高校生最後の年。
玄関で靴を履き終えた時だった
「あれ?岩瀬?」
「あ、杉森君」
クラスメートの杉森芳樹に声を掛けられた。
彼は、片手におそらくスパイクが入っているであろう袋を持っている。
「部活だったの?」
「まぁな。もう引退の時期だけど、俺、大学スポーツ推薦狙いだから。
岩瀬は勉強?」
「うん。家だと集中出来なくて。でも、今日はもう帰るつもり。」
「そっか。…岩瀬の家どっちの方?」
「え、桜ヶ丘だけど?」
「まじ!?俺と近いじゃん。
じゃあ…、一緒に帰らね?」
「え!?」
「あ、嫌ならいいんだけど…。もう薄暗いし、女の子一人は危険だし、えーっと…」
視線をさ迷わせ、がしがしと髪を掻き回す杉森君。
ちょっぴり緊張したような杉森君の仕草のせいか、それとも、普段あまり喋らない相手だからか、なんだかついつい照れてしまう。
「えと、じゃあお願いします…?」
「あぁ、えー、こちらこそ?」
「ふふ、何だかお見合いみたい」
「何緊張してんだかなぁ」
二人で顔を見合わせ笑い合う。
あ、杉森君のこの表情好きかも。
「杉森君、笑顔がいいね。
私笑った顔好きだな」
「…俺も岩瀬の笑顔好きだよ…」
「え?何?聞こえなかった」
「何でもねぇよ。よし、帰りますか!」
「えー!はぐらかした!気になるー」
「秘密」
芳樹が、悪戯っ子のように笑いパチンとウインクしたので、絢芽はむぅと膨れた。
そんな絢芽を見て芳樹が優しく微笑んでいたのは、彼らの学び舎のみが知る事。
校門から校庭に向かって二人の長い長い影が伸びていた。