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妻を他人に
【熟女/人妻 官能小説】

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妻の憂鬱-1

 ゆきは怒っていた。

 美魔女のネット投票がスタートしてから、運営が――そしてFくんが――ピンスタグラムを更新しろ更新しろとうるさいので、ときどきトレーニング姿やカフェでお茶しているところをアップしている。たちまち「いいね」がつき、投票数が増えていく。

 楽しいといえば楽しいけど、実はあまりやりたくない。
 私が更新するたび、ネットニュースで「美人妻ゆき 汗滴るセクシーショット」「美人すぎる広報ゆき 清楚OLスタイルで女子会ランチ」「美魔女のむっちりくびれボディにネット騒然」なんて記事が出てしまうから。
 コメント欄が好意的なのが救いだが、それでも中には「美人だとは思うけどさすがにちょっと出すぎ」「もうこの人飽きたんですけど」「需要あるの?」「仕事ちゃんとやってる?」「子供ほったからかしてよくやるわ」「自分のこと可愛いって思ってそう」といった書き込みも混ざっている。

 好きでアップしてるわけじゃないのに。頼んで記事にしてもらってるわけでもないです。仕事、子育てちゃんとやってます。自分のこと可愛いって思ったらいけないの? 正直少し思ってるよ? それってだめなこと? どうせ謙遜したらしたで「しらじらしい」とか「鼻につく」とか言うんでしょう? 大学時代、周りにさんざん陰口叩かれたから知ってます。
 嫌なら見なければいいだけなのに、なぜわざわざ嫌なことを書いてくるんだろう。

 夫も夫。
 私が愚痴をこぼしてもヘラヘラ笑っているし、なんなら巨大掲示板に投稿されたネットニュースへの下品でエッチなコメントをわざわざ見せてくる。それらはすべてまとめブログ、まとめ動画に転載され、私はネットのおもちゃにされてしまう。

  *

 ファイナルで準グランプリになってからはさらに酷い状況。

 結局最後は私が楓さんにネット投票で追い抜かれたのだが、それで一時は炎上騒ぎになった。なんで? 楓さん可愛いのに。私よりぜんぜん美しくて堂々としてて、同じ女性として憧れてしまう。グランプリに選ばれるのに一番ふさわしいと思う。
 なのに、とくに女性票で圧倒的な差がついたことが、巨大掲示板の人たちに火をつけてしまったのだ。

「【悲報】俺たちのゆき 女に嫌われる女だったwwwwwwww」
「女さんの嫉妬こわいwwwwwwww」
「女性票大差ついてて草」
「男性票はゆき圧勝なのに」
「フェミさんにはそれがまた気に食わんのやろ」
「まんさんイライラで草」
「ゆきがあざといのは認める」
「たしかに自分のこと可愛いって思ってそう」
「天然ぽく振る舞ってるけどわかってやってるタイプ」
「セクシーポーズで照れちゃうあたり狙ってやってるとしか思えん」
「あれはちょっと可愛すぎた」
「嫁に見せたらフンて鼻でワロてたで」
「こんな可愛こちゃんが最低二回は中出しセックスしてるという事実」
「やめろおいwwwwwwww ふぅ…………」
「愛人分いれたら二回どころやないで」
「パパ活で中出し許すとかどんだけ股緩いんや」
「その理屈なら楓は最低四回wwwwwwww ふぅ…………」
「双子おるから最低三回な」
「詳しくて草」
「二人ともどんな顔して中出しおねだりしてんねやろ」
「こんな美人が確定で膣内射精経験有りってのが美魔女のいいところ」
「子持ちの時点で私たち中出しセックスしてまーすって宣言してるようなもんやしな」
「オナニーが捗る」
「やめろやクソwwwwクソwwww ふぅ…………」
「楓のむちむち水着wwwwハァハァwwww」
「↑乗り換えてて草wwwwwwww」
「その日の気分でおかず選択してるんや」
「今年の美魔女豊作すぎた」
「二人だけだぞ」
「にしても楓票の伸び不自然すぎん?」
「クソフェミの圧力という風潮」
「スレ民完全敗北wwwwwwww」
「組織票おつ」
「E通堂もっとうまくやれwwwwwwww」
「はいはい陰謀陰謀」
「スレ総出で行っちゃいますか」
「わい 動きます」

 私の負けを認められない掲示板の人たちが楓さん推しの女性SNSユーザーに嫌がらせのDMやリプライを送れば、彼女らもそれを晒して反撃をする。芸能メディアや人気動画チャンネルは彼らのやり取りを面白おかしく取り上げる。

  *

 毎日の騒動を見て夫がまた大喜びをしている。
 なぜかあの人は私が「女性に嫌われている」ネタが大好きで、最近たびたび弄られる。人が気にしていることを。
 たしかに大学時代の一時期、そういうこともあった。Dくんと付き合ったことが一番の理由だけど、期せずしてあのときも楓さん絡み。女子人気の高い楓さんからEくんを寝取ったみたいに言われ――エッチはしてたけど寝取ったわけじゃないのに――酷いことになった。

 さばさばしてる楓さんとうじうじしてる私。クールな楓さんと陰気な私。堂々としてる楓さんと恥ずかしがりの私。媚びない楓さんとあざとい私。格好いい楓さんと鈍くさい私。都会的な楓さんと田舎臭い私。
 一緒にいると比較され、どうしてもこうなってしまう。

 反省した私は、恋人の前以外ではそういう自分を出さないよう気をつけるようになったのに。社会に出てからはそれでうまくやってきたのに。今では「ゆきさんていつも涼しげだよね」「美人なのに媚びてないところが素敵」なんて、楓さんみたいな評価もしてもらえるようになったのに。
 なのにアラフォーにもなってまた同じことを繰り返すことになるなんて。


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