妻の憂鬱-2
たしかに美魔女の撮影では、カメラマンさんやスタッフさんに乗せられて、少し異性を意識した表情を作ってしまったかもしれない。でもそれはいいでしょう? そういう場なんだから。
ちなみにセクシーなポーズも要求されたけど、何度やっても笑われてしまい「もういいよ」「ゆきさんは自然体で行こう」と呆れられてしまった。恥ずかしくて顔が真っ赤になり、もじもじそわそわ照れ笑いしている動画や写真が美魔女公式チャンネルにアップされ、とんでもない再生回数を記録し、それでまた「あざとい」だの「メスの顔」だの「男に媚びている」だの言われてしまった。酷い。
楓さんが堂々とセクシーポーズしているだけに、さらにまた比較されてしまう。
客観的に見ればたしかに、照れている私の様子は男性から見れば庇護欲をそそられ、女性には不興を買ってしまうかもしれない。自分でも思った。痛い女だなって。でも仕方ないじゃん。タレントでもないし、撮影なんて慣れてないし、わざとそうしているわけじゃないんだから。
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そういうわけで、シークレットマンゴーの専属下着モデルの話は楓さんに行った。数年ぶりに、グランプリ出身者から専属モデルが出たということで、これまた大きな話題になっている。
正直なところ、ほっとした。
投票期間中からFくんやWさんに、それだけは勘弁してくれと何度も頼んでいたくらいだから。
結果としてはマンゴーさんも別に私のことなど眼中になく、普通に楓さんにオファーしたみたいだ。仮にグランプリが私でもそうしていたと聞いている。
Fくんがマンゴーの担当者にそれとなく私の印象を聞いたら、「ゆきさんもすごく可愛いし、いいんですけどね。撮影で恥ずかしがられちゃうとちょっとほら、いやらしい雰囲気出ちゃいますから……」と苦笑いしていたそうだ。
それはそうだろうと思う。水着やドレスでさえセクシーポーズのできない私が、ましてエッチな下着でなんて恥ずかしがって撮影にならないに決まっている。
やはりプロの人には、私にそんな大役は務まらないとわかっているのだ。
そんなの当たり前なのに、私が楓さんにネット投票で抜かれ、グランプリを取り損ない、マンゴーモデルを逃したことで、一部のネットの人たちは大騒ぎしている。E通堂の仕込みだとか陰謀だとかフェミニストの圧力だとか。
実力で栄誉を得た楓さんに失礼すぎる。騒がせてしまって申し訳ない。
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「気にしなくて大丈夫だよ。嫌なこと言ってくるやつは絶対いるんだから」
一連の騒動にいちいちショックを受ける私をさすがに見かねたのか、夫は慰め励ましてくれる。
「しかもほんの一握りの少数だしさ」
「じゃあパパもせめて面白がってからかうのやめてよー」
「ははは、ごめんごめん。ああいうのって結局ゆきがそれだけ美人て認められるってことだから。つい嬉しくて」
夫婦の時間。私たちはいつものようにひとつに繋がりながら、とりとめのない会話を交わしている。
夫の温かい手のひらが、私の乳房の先端の突起をそっと転がす。
「ん、んん……真に受けすぎなのかなー……」
「まあね。でも俺はゆきのそういう真面目なところ、素敵だと思うよ」
おちんちんの先っぽの出っ張りで、おまんこの入り口手前の柔らかな場所を引っ掻く。何度も、優しく。
「そうかなー……ぁ……それ、気持ちいい……」
私が手脚を夫の背中にまわしてぎゅってすると、夫がキスしてくれた。嬉しくてもっとぎゅうっと抱きしめる。夫のうなじのあたりの匂いをくんくんする。いい匂い。安心する。夫も私の耳の後ろの匂いを嗅いでいる。夫婦がお互いにお互いの匂いをくんくんし合うなんて、なんだかエッチで幸せ。
たしかに炎上騒動なんてごく一部のできごと。
ネットの喧騒をよそに、まだファイナルで結果が出る前から私はさまざまな女性誌の取材や撮影に大忙しである。
「美魔女さんに聞く! 私たちの推しコーデ」だとか「大人女子の一週間着回し通勤スタイル」などの特集では、他の美魔女さんやモデルさんを差し置いて、私や楓さんがメイン扱いになるし、中には「ママだってビキニが着たい♪ ゆきさんのくびれボディ極秘トレーニングに潜入!」なんて、私単独の特集を組んでくれるところもある。
テレビや新聞、果てはビジネス情報誌からもお呼びがかかる。著名人やタレントさんに「理想のワーキングマザー」などと持ち上げられ、それを見た政治家がSNSで「ゆきさんは一億総活躍社会の新しい女性の生き方ですね。すばらしいです」などとコメントしている。
会社も私のメディア露出が良いPRになるということで全面的にサポートしてくれており、身に余る扱いに恐縮する毎日である。
楓さんともグランプリファイナルで再会を果たし連絡先を交換できた。お互い忙しすぎてなかなかゆっくり話す機会は取れないが、メッセージアプリで頻繁にやり取りをしている。
楓さんはEくんと結婚後、なんと双子を含む四人の子をもうけた。勤めていた大手マスコミ企業をいったん退職し、十年ほど子育てに専念していたそうだ。最近になってフリーランスのジャーナリストとしての活動をはじめ、昔の伝手などをたどり少しずつ仕事の幅を広げているとのこと。自分の手で人生を切り開いていて、やっぱり楓さん、すごい。
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「ぁん……! ん……っ!」
「ゆきのエッチな顔……可愛い」
「ん……うふふ……ねぇ、チュウして……ん、チュウ……んふぅ……ぁん……!」
夫は強弱をつけおちんちんを動かしている。私の顔が快楽で蕩けたり物欲しそうな表情になってしまうのを楽しんでいるのだ。三十九歳にもなって夫にこんなにも毎日求められるなんて少し恥ずかしいけど幸せなこと。この人のためにも、ずっと美しく可愛らしい女性でいたい。