きす-1
今日は少し風がある。いつもより肌寒い。
「ねぇ…」
「ん？」
誰にも見せない優しい表情で私を見つめる。
「いつもより風があるね」
「寒いか？」
「ちょっと」
じゃあ、温めてやると私を抱き寄せる。強く、でも痛くない。それは、小さい頃親にギュッと抱き寄せられた感覚に近い、というべきか。いや、親の愛情にはまだ私たちは及ばない。全てを預けれる程、私たちの付き合いは深くないのだ。
知り合って４ヶ月、付き合いだして、たった１週間。気持ちを伝えたのは私から。だからだろうか、時々自分が安らげていないと感じるのは。たくさん一緒にいたい、いや一緒にいるのにどこか気が抜けないのは、付き合いの短さ特有のものだと私は認識している。そう、きっと、それだけ。
「癒される」、そう言って私をギュッと抱き締める。私は彼が私で癒されている事が嬉しくて、そっと手を握る。握り返す。彼を見上げる。目が合う。
『ぁ…キスしたい…』
「どした？」
無意識に口が半開きになっている事に気付いた。
「ん…何でもない」
「ははっ」
「どしたの？」
「ううん、別に」
「言ってくれなきゃ分かんないよ」
「…可愛いなぁ」
私が１番反応しにくい言葉。嬉しい。ただ、それを素直に喜んでいいのか、迷ってしまう。だから、無言で笑顔で見つめ返す。するといつも、…
「…」
いきなり、でも自然に。とても自然に、楽に、優しく。
「……」
時々強くなる。息が止まる。呼吸ができない。彼が私の、私が彼の一瞬を奪って。この瞬間が１番好き。
「っふぅ…」
「どしたの、溜息ついて」
私は幸せな溜息がある事を知った。
「溜息つくと、幸せが逃げていくんだよ…」
親友Ｙが教えてくれた。それ以来、極力溜息をしないよう努力している。でも、ね…
「これは、幸せな溜息だから、良いかな…『どう思う？Ｙ』」
Ｙの笑顔が蘇る。
「ははっ」
「また笑う…」
「また怒るのか？」
この笑顔に私は勝てない。
「んんん…」
「怒ってみてよ」
ボスッッバシッッポフッッゴッ…しまった、さっきのは肋骨。
「あ〜痛い痛い、死にそう、死んでしまう、殺される」
「ごめん、強くし過ぎたかな…大丈夫？」
「痛くないよ。優しいな」
「…ははっ…可愛いね…」
「お前には負けるょ…」
また、返答に困る。
「っ……」
ゆっくり、倒れてくる。重みに身を任せた。風が少し心地良い。