視線の先-2
その男は、突然現れた。金曜に現れて、やっぱり真っ赤なスポーツカーの脇で、理衣に声を掛けた。
「これから時間、ある?」
恭二と名乗ったその男の本名すら、理衣は知らない。金曜の同じ時間に、必ず同じ
場所で待っていること。その後はホテルに行くこと。理衣が知っているのはそれだけだった。
恭二はいつも、理衣を置いてホテルを出る。数時間の、現実感のない一時。
もう、やめよう。何度もそう思うが、快感に負けてしまう自分が恥ずかしかった。
愛されていなくても、理衣はあの男を愛していると思った。赤いスポーツカーを見ると、心は踊り、小走りになる。その気持ちは、罪悪感とどちらが勝っているだろう。
でも、もう疲れた。何週間かの、足してしまえばほんの数日にも満たない間の快楽に。
いくら私が愛していても、あなたは私自身を求めることはないのね。
金曜の午後。理衣は裏門へと足を向ける。
それ以来、正門をくぐることはなかった。
何ヶ月か経った。あれから恭二には会っていない。
所詮は都合の良い女でしかなかった。理衣は自嘲気味に笑う。
相変わらず裏門から、逃げるように学校を出る。
自分で選んだ道なのに、思い出すと涙が止まらない。
悔しい?違う。理衣は、叶わない愛を諦めることが出来なかったから。
耳障りなエンジン音。それでもどこか、懐かしい。
扉が開く音に顔を上げれば、そこにいたのは恭二だった。
恭二は強引に理衣の腕を掴み上げると、車内へと引きずり込む。
「や、やめてっ!」
抵抗するが敵うはずもなく、強引にシートに押し付けられ、否応なしに車は発進する。
「降ろしてっ!」
叫ぶように声を上げるが、怒りを露にした恭二の表情の前にはそれ以上何も言うことが出来ない。
「理衣、どうして逃げたんだ?」
聞いたことのない低い声に、身体が怯えている。
「答えろよ、理衣」
恐怖に駆られて、口を開かなければと思う。とっさに頭に浮かんだことを声にする。
「あなた、私のことなんて見てないでしょう」
急ブレーキで、シートベルトを着けていなかった理衣の身体が浮く。小さく悲鳴を上げてダッシュボードに手をついたところに、恭二の身体が覆いかぶさる。
「止めて!もう、止めにして!」
恭二の腕が、抗う理衣の衣服を剥ぎ取る。白い腕に、引っかかった布地で痣が出来た。
茂みの中に停められた車が大きく揺れる。
恭二は構わず胸を掴み上げ、空いた手でリクライニングを倒す。
「痛いっ!」
叫び続ける理衣の上にまたがり、ズボンを降ろした。
「咥えろよ!」
閉じようとする唇を無理やりこじ開け、肉棒をねじ込む。
理衣は、噛み付くわけにもいかず、咽喉の奥にまで迫るそれにむせた。自然に涙が溢れて来る。
「うぐっ…ぐうっ!」
苦しくて呻く声が、くぐもって発せられる。
恭二は、逃れられないように理衣の髪の毛を掴み上げると、激しく腰を動かした。