ばれてないと思った?-1
「いとこって結婚できるんだよ〜」
美琴が酔っぱらってそう言うと、目の前で服を全部脱いでしまった。
美琴は二歳年下のいとこで、同じ大学の後輩でもある。
新入生歓迎コンパ。
どのサークルでも、新入生が美人でかわいいと、新入生はおだてられ、飲まされるのはわかっていた。
いい感じに酔っぱらっている美琴を、歓迎会が行われている居酒屋に迎えに行くと、抱きついてくる美琴を背負って、部屋まで連れて帰って来た。
美琴は同じサークルに入ると言って聞かずに、映画研究サークルに入った。
最近は、つき合いが悪く、あまり顔を出さない奴が、新入生の中でも、ひときわかわいい女の子を酔わせたところで連れて帰ろうとしたので、一瞬、飲み会に参加していた男連中と険悪な雰囲気になった。だが、いとこなのだと説明すると、あとで紹介してくれよと、他の女の子を狙いに行った隙に逃げてきた。
「……服を着ような、美琴」
「ここまでしても美琴のことを、女として見てくれないの?」
「見てるから、ほら、下着を……」
「むー、このまま、お外の交番まで行ってやるんだからっ!」
美琴が子供の頃に
「おにいちゃんのお嫁さんになってあげるね」
と言ってから、ぶれることなく、同じ大学に入学してきたのには驚いた。
美琴の両親は海外赴任も多く、美琴は名門私立の小学から高校まで寮生活をしていて、ほとんど会う機会はなかった。
あわてて玄関の扉の前に、通さないとサッカーのゴールキーパーのように立つ。
それを見た美琴が、くるりと部屋に引き返したので、嫌な予感がして部屋に戻ると、ノートパソコンの配線を抜いているところだった。
「美琴、話せばわかる!」
「ねぇ、美琴をおにいちゃんの彼女にしてくれる?」
よく見ると、美琴の左手にはスマートフォンまで確保されていた。
ノートパソコンとスマートフォン、ルータまで人質に取られてしまった。
返事をおとなしく待っている美琴ではなかった。机の引き出しを開いた。
「ほほう、これは何かなぁ〜?」
最悪だ。美琴を部屋に連れて来る前に隠しておくべきだった。
それは、お気に入りのPC用アダルトゲームだった。
「妹が来ました3、おもちゃにしちゃっておにいちゃん、ときめき妹とえっちライフ、かわいい妹に夜這いしちゃいました……ふぅん、なるほどね〜」
「あああ、タイトルを読み上げないで」
「おにいちゃん、こういうつるぺたな女の子が好きなの? ロリコン?」
終わった。がっくりと両膝をついてうなだれている間に、美琴はスマートフォンの撮影機能で、ピースをしながら、裸の自分を撮りまくっていた。
「ねぇ、ばれてないと思った?」
美琴はベッドに腰を下ろして、にっこりと笑った。
「おにいちゃん、美琴のこと大好きだもんね。でも、ちゃんと見て。おにいちゃんの美琴はもう大人だよっ!」
美琴がアニメ声優のような甘い声で話しかけてくる。
美琴に子供の時に告白されて、こっそりキスされてから、ずっと頭から美琴のことが離れなかった。
いとこだけど「おにいちゃん」と呼ばれて、妹ができたとうれしかった。
思春期になった頃、美琴は親の都合で寮生活になって、地方の田舎からいなくなっていた。
それから同級生に告白されてつきあってみたこともあった。運動部のショートヘアーで、さばさばした性格だが、とても人気がある女の子で、まわりからは、かなりうらやましがられた。
でも、何かちがっていた。
大学はいくつか合格した。親は教育学部へ行って欲しいと言ったが、美術系の大学に進学した。
地元から離れたかったのは、ふってしまった女の子と顔を合わせるのが、とても気まずかったということもある。
あと教育学部に進んで、教員になってしまったら、幼い頃の美琴を思い出すような女の子たちと、毎日すごさないといけなくなるかもしれない。
それはとても危険なことだと思った。
美琴が同じ大学に入学して、一人暮らしをしている部屋に訪ねて来た時は、とても驚いた。
とてもきれいな女性に成長していたからだった。清楚系の服装と、さらさらとした黒髪のロングヘアー。
「おにいちゃんの後輩になりました。よろしくお願いします」
その声を聞いて、少し目尻の下がった大きめな目に見つめられて、不覚にも、どきっとしてしまった。
すらりとしているけれど、身長はあまり高くはない。大きめな胸のふくらみはセクシーで、にっこりと笑う顔も可愛い。
きれいな女性になったけれど、子供の頃の面影が残っている。
「うん、うちの親から連絡あった。きれいになったね。美琴ちゃん……あっ、ごめん、美琴ちゃんじゃなくて、美琴さんって呼んだほうがいいかな?」
「ねぇ、おにいちゃん、美琴って呼んでほしいな」
一歩近づいた至近距離で、上目遣いで言われて、さらにどきっとしてしまった。
美琴に、心の中をのぞかれているような気がした。
「おにいちゃんのスマホの中に、こんなの見つけちゃった。寝ているおにいちゃんにい・だ・ず・ら♪、エロAMSR」
美琴は机の上のワイヤレスイヤホンをつけて、ベッドに腰を下ろした。
裸で交番にかけ込まれるよりかはましかもしれないが、かなりつらい。
母親にエロ本が見つかった時の1000倍はつらい。
美琴の酔いが覚めてくれるのを、ここは待つしかないと、膝の上で握りこぶしをつくったまま、美琴を見ないようにうつむいて我慢した。
美琴が目を閉じて、無言でエロAMSRを聴いていた。
恥ずかしいからって、美琴に乱暴な口調で怒鳴ったりもできない。
それが、おにいちゃんの悲しい習性なのだった。
もうひとつ、今は絶対に美琴に近づけない理由がある。
こんな状況なのに、ズボンの下の股間のモノが猛ってしまっていた。
「ふぅ……おにいちゃんのえっち」
エロAMSRを聴き終え美琴が言った。