A専務秘書-1
応接室に通され専務の健司が言った。
「これは形式的な面接だから気楽にして。
涼子ちゃんを不採用なんてあり得ないからね。」あえて下の名前を使った。
「はい。ありがとうございます。またお世話になります。」頭を下げる。
「今日来てもらったのは涼子ちゃんの希望の職種を確かめたくってね。」
「以前と同じ経理課ならお役に立てると思います。」
「でも中途採用になるから以前ほどの給与は出せないよ。ご主人の事でお困りの事は聞いています。
ちょっと待って下さいね。」
卓上のビジネスフォンを押す。
「はい。人事部です。」
「専務の藤城だが前川部長に3号応接室迄来るように伝えてくれ。」
「前川。言っていた正木涼子さんだ。採用は俺が決めた。
後のことはよく打ち合わせしてくれ。俺は常務に話しがあるから専務室にいるよ。」
専務と父が立ち去ったあと前川部長が切り出した。
「専務から出来るだけ高給を取れるポジションに配属する様指示されています。」
「ありがとうございます。そう言う事でしたら経理課にこだわらなくても大丈夫です。」
専務になった健司の思いやりに違和感を感じながらもそう答える。
「それで私が考えたのは専務秘書のお仕事なんです。
専務はあの通りワンマンな方なので秘書がすぐに辞めてしまうのです。」
「どんな内容のお仕事ですか?」
「一口で言ってしまえば専務の仕事が円滑に進むようにサポートする事です。」
「具体的にはどいう事でしょうか?」
「対外的には取引先のお客様と接したりアポイントの調整、会食手土産の準備ですね。
当社の顔として失礼なき様対応することが求められます。
社内的には部下との連絡、役員同士の会議や打ち合わせの設定、
資料や書類の整理なんかでしょうね。」
「わー私にはとても無理だわ。」
「言葉にすると難しく思えますが専務に気持ちよく仕事をさせればいいんです。
後のことはどうにでもなりますよ。」
「いえ、それでも私の手に負える仕事じゃないと思います。」
「そうですか。じゃ、社内事務のお仕事15万円に特別に3万円プラスいたしましょう。
専務秘書の事は心配なさらなくてもいいですよ。
明日、専務秘書の面接があるのでその10人の中から選びます。
実は今回給与50万円で募集したところ実に130人ほどの応募がありまして
その中から履歴書選定で選ばれた10人なんです。
いずれも容姿端麗で優秀な方ばかりですよ。」
「えっ、専務秘書のお仕事ってそんなにお給料頂けるのですか?」
前川部長は涼子の隣に移動し小声で話し始めた。
「専務がおっしゃるには正木君は優秀な人材だし僕のこともよく理解してくれている。
彼女以上の適任者はいない。
給与100万円出してもいいから口説き落とせって命じられています。
人事部の私が言うのも変ですがこれ以上良い仕事はないと思いますよ。」
「ひゃ、100万円も頂けるんですか。少し考えさせて下さい。」
「それがさっきも言ったように明日秘書の面接があるので考えて頂く猶予はないのです。」
「専務秘書ってプライベートなお付き合いも含まれているのでしょうか?」
「いえそんな事はありません。
ただ公用と私用の境目の微妙な仕事なのでその辺は理解してください。
今専務は別居中なのでもしかしたらシャツのアイロン掛けくらいは頼まれるかもしれませんね。」
「わかりました。専務秘書の仕事やらせて下さい。」
「ただこの事は専務得意の横紙破りですから誰にも喋らないでください。
父上の常務にも内緒ですよ。もし専務の社則違反が漏れたら首が飛ぶかもしれませんので。」
「はい。分かりました。約束します。で、出社はいつからですか?」
「明日からでもいいですよ。正木さんのご都合はいかがですか?」
「それじゃ明日から出勤いたします。
「正木さん白のスーツ持っていらっしゃいますか?
我が社の秘書は清潔感を出すため白のツーピースを着用してもらっています。
もしお持ちでないなら帰りにここへ寄って誂えて下さい。
制服に準じますので費用は会社が持ちます。」ブティックの名刺を受け取る。
「生地やデザインはお店の方がよくご存じなので任せてしまえばいいですよ。」
仮縫いの時点ではもう少し腰回りに余裕があったし丈ももう少し長かったはずだ。
生地もその時よりも薄くなっている。
涼子の88cmのヒップを85cmのミニタイトに押し込んでるようなものだ。
丈も膝の上くらいだったのが太ももの露出が増えている。
生地が薄くなった分下着が透けて見える。白の着衣の怖いところだ。
上着もボタンが弾けそうなくらいウエストが絞られ胸のふくらみは隠せない。
涼子は誂えのスーツが出来ても袖を通す気にはなれなかった。
間に合わせで買った既製品のスーツで今も通勤している。