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天井の金魚
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空の上と地の底-2

「可哀相だったな、辛かったなって云われて良いのはそういう人達だけだろ。テメェが泥沼に居るからって、他人何人も同じ泥沼に引き摺り込む人間、どうして憐れむんだ」

なあそうだろ、と父親は泣く。

「俺だって解るよ。周りが悪かった事もあんだろ。あいつらの親だって有罪だよ。だけどやったのはあいつらだ。あいつらがやらなかったら、あの子はまだ生きてた」

ちくしょう―――父親は慟哭する。

この声を聞くと、敏之は堪らなく辛くなる。

「病気みてぇに、どうしようもなかった事じゃねえ。あいつらがやらなかったら、起こらなかったんだ。俺が憎んで何が悪いんだ!」

父親は、いつも泣く。いつも叫ぶ。一人で毎日耐えて、苦しんでいるからだ。

「知ってるか?俺はな、被害者意識が強すぎるんだと。感情論に走ってるんだと。なあ、谷町さん」
「はい」

谷町は頷く。父親は不幸だ。あらゆる噂や勝手な言葉が、今の時代は届き過ぎる。

「娘あんな風に殺されてよ。冷静に対処出来るか?誰がそう出来る?感情論になるなんて当たり前じゃねえか。俺はな、云ってやったんだ」

風も、父親の心までは揺らせない。

彼にのし掛かる影は余りに暗く、明るい太陽の下では一層濃い闇を浮かび上がらせる。

「謝るんならな、アンタらの手であのガキ殺せって。生きたまま爪剥いで五体バラバラにして、俺ンとこ連れて来い。そしたら死体の頭はねてやるって」
「お父さん」
「そしたら云い過ぎだとよ。ウチの子だって、したくてしたんじゃないって云うんだよ。笑っちまうよな。やりたかったからやったんだろ。決まってるじゃねえか」

父親は必死で話す。
敏之は知っている。彼らが供述した言葉を。
彼らが犯行を楽しんでいた証拠と云っても良い言葉を。

―――普通に犯すのに飽きた。泣きわめくのが面白かったけど、うるさかった―――。

普通に犯すとは何だ?
堪らなく腹が立った。
強姦は少しも普通ではない。殺人と同じだ。人生を奪い、心を潰す。
許されない犯罪だ。
残忍で冷酷な行為だ。

ポルノの世界でよくある事が許されると思うなど、想像力が無いにも程がある。

父親もそう思うのだろう。そして語る言葉で自身が傷つくと解っていながら、彼は語らずにいられない。

敏之は聞く為に毎年ここに来る。
話したいならば、聞くのが自分の償いだ。

救えなかった自分の。

「俺は、あんな目に遭わせる為にあの子を育てたんじゃねえんだ。普通に泣いて笑って、誰かに惚れて、そんな風に生きて欲しかった」

父親は、敏之を見る。
倦み疲れた目で。


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